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傾奇
2部分:第二章
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第二章

「とにかくそれがしは小者は相手にはしませぬ」
「だが決闘は受けるか」
「そういうことでございます」
「ではわしが決闘を挑めばどうする」
「無論、受けまする」
 慶次はここでも屈託のない笑顔で前田に答える。
「では今からですな」
「おうよ、表に出るのじゃ」
 まさに売り言葉に買い言葉だった。前田も言う。
「そしてそこでじゃ」
「何で決闘をされますか」
「拳じゃ」
 刀や槍でなくだ。それだというのだ。
「今回もそれじゃ。今回も負けぬぞ」
「おやおや。叔父御も血気盛んですな」
「血気ではない。怒っておるのじゃ」
「それがしにですか」
「そうじゃ。だから表に出よ」
「畏まりました。それでは」
 前田も慶次も共に立ちだ。そうしてだった。
 二人は庭に出て殴り合いをはじめた。互いに拳を繰り出し合う。その度に鈍く痛そうな音が庭に響く。家臣達はそんな彼等を見てやれやれといった様子だった。
 喧嘩は暫く続いたがやがて終わった。それからだ。
 前田は奥に下がって傷の手当てを受けていた。それは彼の女房であるまつが行っていた。見れば勝気そうな顔立ちであるが目鼻立ちがしっかりしていて整っている。
 その彼女がだ。夫の顔を水で濡らした手拭で冷やしながらこう言った。
「またですか」
「またとは何じゃ」
 前田はむっとした顔で妻に返す。彼女にその目を向けながら。
「男はこうしなければならぬ時があるのじゃ」
「七日程前もそう仰いましたが」
「そういえばそうだったか」
「そうです。いつもいつも」
「慶次が頑固だからじゃ」
 だからだとだ。前田は言うのだった。
「だからわしも言って聞かせるだけでなくじゃ」
「やがては拳にですか」
「いつもなるだけじゃ。しかしじゃ」
「負けはしなかったというのですね」
「わしの勝ちじゃ」
 前田は妻の前にその大柄な身体を屈ませて手当てを受けながら答えた。
「今回もな」
「おそらく慶次殿もそう仰ってますよ」
「言いたいのなら言わせておくわ」
 それは構わないという前田だった。
「存分にのう。しかしじゃ」
「それでもですか」
「勝ったのはわしじゃ」
 まだ言う前田だった。
「間違いなくじゃ」
「全く。そうやってもう何年ですか」
 まつは前田が子供の頃から知っていた。幼い頃に戦で父をなくした彼女は前田家に引き取られて育てられたのだ。だから前田のことはお互いに子供の頃から知っているのだ。
 だからこそだ。前田のことも慶次のことも知っていてだ。こう言ったのである。
「何かとあれば喧嘩をされて」
「喧嘩ではないぞ」
「決闘だと仰るのですね」
「左様。そしてじゃ」
「慶次殿に叔父としてですね」
「拳で教えてやっているのじゃ」
 こう言って引かない。あ
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