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東方虚空伝
第三章   [ 花 鳥 風 月 ]
五十四話 凶夜の警鐘 壱
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は無かった、それでも彼の言葉は萃香の中で散らばっていた疑惑の欠片を一つの結晶にするだけの真実味を含んでいるのだ。

「…………それが本当だとしてあたしが仲間を裏切るとでも?」

 絞り出すように吐かれる萃香の言葉に虚空は、

「裏切る?違う違う♪これから君と僕は親交を結ぶんだよ!そうすれば僕達は仲間だ!仲間同士なら隠し事をしないで済むし裏切りにもならないでしょう?君の仲間は僕の仲間にもなる訳だしね♪」

 本気か嘘か読み取らせないヘラヘラした笑顔を浮かべながら虚空は萃香へと右手を差し出し手を開いた、この手を取る事が契約の証だとでもいうように。
 萃香は顔を伏せ暫しの間黙考した。それは自分の中であらゆる事柄を天秤に掛け何が最善の答えなのか?自身の理念を曲げるのか?と、どちらを守るかを決める短くとも重要な審議の時。
 そして彼女が出した答えは――――

「…………断る」

 それが正しいのか正しくないのか、今は分からない。それでも萃香は自分の意思を貫く事を選んだ。彼女の中ではすでに此処からどうやって逃げ出すかの思考が始まっている。
 虚空の言葉が事実であれば自分が百鬼丸を討つ、それは一族の恥は一族が(そそ)ぐという鬼の矜持だ。

 安易な道より鬼として矜持を捨てない道を選んだ萃香の言葉に虚空は、

「そっかそっか〜それは残念、どうしようかな〜」

 全く動揺も落胆もしていなかった。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 虚空の態度が意外だったのであろう、萃香が不信感を隠そうともしない視線で見つめていると虚空はその視線を全く気にしていないのか胡散臭げに微笑むとある提案を投げかける。
 それは萃香が全く予想もしなかった提案だった。



「じゃぁ萃香、ここは一つ僕と腕試しをしようよ!」

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