三十一話 「信じてる」解
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「すみません」
貴女は透き通るような綺麗な声で話しかけた。
「…白夜…だったか?」
一方、彼によく似た、男性が貴女を一瞥する。
しかし男性は、彼より髪が短く、彼より大人びた印象がある。
貴女はぺこりと頭を下げた。
「狂夜のお父様でいらっしゃいますか?」
貴女は淡々と堅く言う。
彼によく似た男性…彼の父親はこくりと、軽く頷く。
「…既に紫から話は聴いた。狂夜の恋人だろう。」
貴女は恥ずかしいのか、彼に対して少し罪悪感のようななにかがあるのか俯いて頷いた。
「…こっちだ。来なさい」
彼の父親は、くるりと貴女に背を向けてついてくるように催促した。
貴女は、少し躊躇いがちに一歩、二歩と大きく、
しかし、まだ心は迷っているのか歩幅は狭くなっていく。
私は貴女の背を押すが触れられないし、感じない
やがて貴女は、小さな歩幅で『その場所』にたどり着き、歩を止めた。
強い芳香の匂い、たくさん枝分かれして、生い茂る緑…と言うより黄緑色の葉
月桂樹。
たしかそんな名前だ。
花言葉は、『名誉』
まるで彼を象徴する言葉、名誉ある死を遂げた、彼。
貴女は、彼の象徴である木をジッと見つめる。
彼の何時も放つ煙草のようにきつい匂いを放ち、
彼の人生の分岐点のように枝分かれした幹、
そして、そこにただただ感じる存在感。
貴女は、俯いた。
『どうして?』
私の声は聞こえない
『ねぇ、どうして?』
私の声は、聞こえな、い
『ねぇ、どうして、泣いてるの?』
聞こえ、な、い
『ねぇ、ねぇ、ねぇ!聞いてよ!なんで!?なんで聞こえないの!?』
貴女は、どんなに言っても話を聞かない
『ねぇ、届いてよ、聞いてよ、顔を見せてよ、こっち向いてよ、なんとか言ってよ、私を見てよ、反応してよ、触れてよ、一人はやだよ、寂しいよ、なんで、どうして?、私は、死んでるの?彼のために泣かないでよ、彼を否定するの?捕らわれないでよ、過去に。』
貴女は、手で涙を拭い。
一本の短剣…と言うより、
先の折れた一本の刀を
貴女は、それを躊躇うことなく名誉の木に刺した。
すると、彼の象徴の木は、一つの異変を起こした。
木の幹から一斉に花が咲いた。
花は色とりどりで大きさ、形が異なっている。
『あぁ、彼も捕らわれていたのか。』
私は、その中で見つけた。
一つ、この木にふさわしくない…いや、今は、ふさわしいかもしれない。
知識の果実を。
彼は、神に抗い、過ちを犯した。
まるで起源人間。
アダムは彼。
イヴは貴女。
私は、貴女と彼を唆した蛇。
なんだ、全部、私じゃない
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