4部分:第四章
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第四章
「私が彼女と結婚しよう」
「あの、先生」
若い僧侶は遂にだ。怪訝な顔を唖然とさせてだ。そしてだ。
そのうえでだ。彼に返した。
「聖職者は結婚できませんが」
「そうだな」
「はい、確かに子供はいたりしますが」
公にはならない子供がいたりする。ローマ教皇でもだ。弟の子として自分の子供達がいた。チェーザレ=ボルジアの父アレクサンドル六世だ。
そうした腐敗もルターは嫌っていた。しかしだ。
ルターはだ。それをあえてするというのだ。それに対してだ。
ルターの信奉者である若い僧侶もだ。驚かざるを得なかった。それでだ。
その驚いた顔でだ。ルターに言った。
「幾ら何でも公に結婚するのは」
「いいのだ」
「何故いいのですか?」
「私は最早カトリックの者ではない」
ルターが言う根拠はここにあった。
「神父でも司教でもないのだ」
「だからですか」
「いいのですか」
「そうだ。いいのだ」
こう答えたのだった。
「むしろバチカンのそうした偽善をだ」
「否定されてですか」
「私は結婚する。あの娘とな」
「そうされますか」
「バチカンの戒律はもう通用しないのだからな」
それでだというのだった。そしてだ。
ルターはだ。その残った娘と結婚したのだった。その後だ。
彼はだ。若い僧侶にしきりにこんな話をするのだった。
「いや、いいものだ」
「結婚されてですか」
「子供ができるとな。違う」
何とだ。彼は何人も子供ができたのだ。その子供達の話をだ。
彼は若い僧侶にだ。満面の笑顔でするのである。
「いいぞ、だから君もだ」
「結婚ですか」
「そうだ、子供達に囲まれること」
そのことこそがだと。ルターの満面の笑みでの話は続く。
「それが神の御教えなのだ」
「はあ。それにしても」
「何だ?それにしても」
「先生って子供好きだったんですね」
そのことをだ。若い僧侶は知ることになった。
「世話焼きなだけではなくて」
「私は前から子供好きだが」
「そんな風には思いませんでした」
実は今までだ。ルターはだ。
厳格で強硬な人物だと思っていたのだ。だからバチカンにも帝国にも逆らったのだ。
しかしだ。今若い僧侶の目の前にいるルターはというと。
優しき夫であり善き父だ。その彼がいるのだ。
その彼を見てだ。若い僧侶は複雑な面持ちで言った。
「まあそれでも」
「それでも。何かね」
「私は先生を敬愛します」
それは変わらないというのだ。
「これまで通り」
「そうしてくれるのか?」
「はい、そうした先生もです」
優しき夫である善き父であるルターもだというのだ。
「また敬愛できるものですから」
「そうか。私の何を敬愛してくれるのかはわからないが」
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