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金が落ちる
3部分:第三章

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第三章

「そう教えられてきましたし」
「成駒屋さんもそう思われているのですか」
「はい」
 まさにだ。その通りだというのである。
「そう思っています」
「そもそもあの演目ですが」
 若い谷町はここで道成寺そのものについて話をした。
「かなりお金のかかるものですね」
「そう言われていますね」
 歌右衛門自身にとってだ。そうした意味での言葉だった。
「確かに」
「だからこそ。使われるのですか」
「どの演目にもです。金は惜しみません」
 歌右衛門はこうまで話した。
「全ての演目にですが」
「道成寺はどりわけですか」
「私の思い入れもありますが」
 それも入れてあると。否定はしなかった。
「やはり。あの作品はとりわけ」
「そうなのですか」
「全ては芸の為です」 
 そしてだ。これが結論だった。
「その為には金なぞ問題ではないのです」
「ううむ、芸はそういうものですか」
 若い谷町は歌右衛門の言葉にだ。思わず唸ってしまった。
 そうしてそのうえでだ。一旦目を閉じてだ。
 それからまた目を開く。晴れた目であった。
「いや、わかっているつもりですが」
「ふむ。君もどうやらだ」
「その入り口に来た様だな」
 他の谷町衆がここで彼に言った。
「芸の道の入り口に」
「それに」
「だといいのですが。思っていた以上に奥が深いのですね」
 彼は深く考える顔で彼等にも述べた。
「いや、全く」
「そういうものだ。それではな」
「その入り口から。さらに入ることだ」
「そうさせてもらいます。それでは」
 あらためて歌右衛門を見てだ。また話すのだった。
「成駒屋さん、宜しいでしょうか」
「はい」
「これからも。成駒屋さんをです」
 舞台だけでなくだ。彼自体をというのである。
「見させてもらいます」
「有り難うございます。それでは」
「はい、これからも宜しく御願いします」
 こうやり取りをするのであった。
 彼はそれからも歌右衛門の舞台、とりわけ道成寺を観るのだった。それはまさに芸の為なら厭うものはない、そうしたものであった。


金が落ちる   完


                     2011・3・27

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