第短編話 U
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『水着』
「翔希くん、何読んでるの?」
一条家の道場にて。リハビリの相手を頼まれた直葉は、 その道場に座り込んで何やら雑誌を読み込んでいる翔希のことを見かけた。駅にでも置いてありそうな雑誌の表紙は……所沢市のガイドブック?
「あ、ああ直葉。頼んでおいてすまない」
「ううん。それより……何それ?」
バツの悪そうな顔をして雑誌を鞄にしまい込もうとした翔希だったが、あいにくと直葉の興味はその雑誌に向いてしまった。直葉の視線からそれを感じ取った翔希は、溜め息混じりにその雑誌を直葉に渡してきた。
「観光ガイドブック?」
「……実は……」
やはり翔希が見ていたのは、近場にある地方都市の観光ガイドブック。美しい風景や食事処などが載ったページをめくっていると、翔希がこめかみを抑えながら話し始めた。
曰わく、今度二人で出かけるコースを決めておいて、と里香に丸投げされたそうな。何か重大なことかと思っていた直葉は、翔希の口から重く語られたそれに思わず力が抜けた。
「……それだけ?」
「重要な問題だ」
里香さんのことだから、冗談半分で笑いながら言ったんだろうなぁ――と直葉は確信する。それを翔希が真面目に受け取ったというか、真剣に考えているというか。……いや、どうせなら良い所に里香を連れて行ってあげたい、という翔希の思いやりか。
「見栄っ張り」
とりあえず直葉は思ったことを口にすると、翔希はぐうの音も出ないように目を背ける。
「という訳でその……力を貸してくれないか」
「……まあいいけど」
頼んでばかりで悪いが、と続く翔希の申し出を受けると、直葉は観光ガイドブックをペラペラと見る。翔希とこの雑誌の編集者には悪いが、個人的にはあまり惹かれるところはない……
「ALOじゃダメなの?」
「ALOで俺が知ってるところって行ったら、大体里香も知ってるからなぁ……」
困ったように髪を掻き上げる翔希の言葉に、直葉はああ、と納得する。鍛冶屋の店主と助手などとやっていれば、情報源やどこに行っていたかは、秘密にでもしていない限りは筒抜けだろう。お互いに行き先を、わざわざ隠しているとも思えない。
「んー……里香さんって、確か温泉好きだったよね。翔希くんも」
「俺は里香ほどじゃないけどな」
記憶を探ってみると、紹介できそうな場所に一つだけ心当たりがあった。シルフ領の奥地にある、高所でNPCが営業している温泉――のような――場所。ただし随分と曰わくつきではあるが。
「うーん……あんまり気は進まないけど、紹介できそうな場所はあるよ」
「本当か!」
その時の翔希の、普段とあまり変わらないものの心底嬉しそうな顔は、大分忘れられない。直葉本人でも
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