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人になった虎か、虎になった人か
人になった虎か、虎になった人か
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て思わず叫ぶ。そして虎を見た。
 だが虎はそれでも生きていた。尚も立ち、知事に襲い掛かろうとする。
「おのれっ!」
 知事はさらに矢を放った。それで再び虎を貫いた。
 今度は右目だった。知事はなおも矢を放つ。
 そして三人目。今度は額であった。それで終わりであった。
 虎はその場に崩れ落ちた。そしてその姿を人間のものに戻していく。
「やったか!?」
 人々はまだ警戒していた。やはり得物を手に虎から人になった朱の亡骸を取り囲む。朱はピクリとも動かなかった。それを見て皆ホッと息を撫で下ろした。
「やったな」
「ああ」
 口々にそう言い合い顔を向ける。そして知事を見た。
「お見事です」
「いや」
 だが彼は謙遜して手を横に振る。
「私の力ではない。ここにいる皆のものだ」
「左様でしょうか」
「私一人では到底無理だった。皆よくやってくれた」
 そうねぎらいの言葉をかけた。
「有り難うございます」
 皆それに感謝する。そして知事に頭を垂れた。
「だからそれはよいのだ」
 知事は今度は苦笑した。
「私は止めをさしただけなのだからな。皆の功じゃ。よいな」
「わかりました」
 それを受け頭を垂れた。次に知事は人の屍となった朱に顔を向けた。
「さて」
 見れば事切れている。その口からは血が流れている。
「確実に死んでおるな」
「はっ」
「息はありません」
 周りの者が調べる。やはり息はなかった。
「ならばよいのだ。だが」
「だが?」
 周りの者はその言葉に耳を止めた。
「虎はこの虎だけではない」
「といいますと」
「樵よ」
 彼はここで樵に顔を向けた。
「虎は一匹だけではなかったのだな」
「はい」
 樵はその問いに頷いた。
「かなりの数の虎がおりました」
「それが全て人の言葉を使っていた」
「はい」
「つまりだ」
 彼はここで周りを見回した。
「ここには人の皮を被った化け物が多く潜んでいるということだ」
「な・・・・・・」
 皆それを聞いて絶句した。
「それは本当でしょうか」
「うむ」
 知事はそれに頷いた。
「樵の話が本当ならばな」
「では我等のいる町や村にも虎が人の姿を借りて潜んでいるのですか」
「そういうことになる」
 知事はまた言った。
「怪しげな者達は我等の側にこそ潜んでいるのだ。そして我等を狙っている。それは覚えておけ」
「わかりました」
 それを聞いて顔が青くならぬ者はいなかった。彼等は不意に辺りを見回した。見回さずにはいられなかった。
 以後もこうした話が続いた。そして今もそれはある。人の世にいるのは人とは限らないのであった
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