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君の手を引いて楽園へ
君の手を引いて楽園へ
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[1] 最後
 今日は何故か土方さんの機嫌がすこぶる悪い。不機嫌なオーラを放つ背中を見つめながら、何かしただろうかと必死に考える。
 今日は珍しく俺も土方さんも非番で、日中は土方さんの部屋で柏餅を食った後寝て過ごした。そして、目が覚めたら土方さんの機嫌が悪くなっていた。
 土方さんを怒らせるような事は何一つしていない筈だ。俺が非番の日に土方さんの部屋で過ごすのは最早当たり前だし、文句は言えども本気で怒られた事はない。
「……おい総悟」
 黙り込んでいた土方さんが口を開く。地を這うようなとても低い声だった。それだけで本気で怒っているのだと分かるが理由が分からない。
「テメェ……何か言う事はねーのか」
「へ?」
「何か言う事はねェかっつってんだ」
 突然言う事がないかと聞かれて目を丸くする。やはり何かしてしまっていたのか? いや、それはないだろう。今日は土方さんに何もしてない。
「……今日は何の日だ」
「子供の日ですけど……あ」
 そこでやっと自分が地雷を踏んでいた事に気が付く。昼間山崎が柏餅を持って土方さんの部屋を訪れた時点で、いやもっと早く気が付くべきだったのだ。

 ――今日は、土方さんの誕生日だ。しかも恋人になってから初めての。

 だから俺も土方さんも非番だったのかと今更合点がいって、気付けずに寝てしまった事を後悔した。
 きっと土方さんは俺と出掛けたかったのだ。自分から誘うなんて柄にもない事ができずにいる内に俺が寝てしまい、出掛けるには遅い時間になってしまった。だからあんなに機嫌が悪かったのか。
「……すいやせん」
「…………」
「誕生日おめでとうございます」
「……もっと早く気付けこの空頭。一日終わっちまったじゃねーか」
 この後宴会だから食事にも行けねェし、と背を向けたまま嘆く土方さんが愛しくて後ろから抱き締める。
「食事は宴会早めに抜けて行けばいいでしょう。大丈夫、近藤さんなら分かってくれまさァ」
 鼻先を擽る黒髪にキスを落とすと、抱き締めた腕に手が添えられる。
 相当寂しい思いをさせてしまったのだろう。今日はたっぷり甘やかしてやらねぇと。ドSなのにそんな事を思う俺はきっとこの人にベタ惚れしている。
「遅くなっちまったからねィ、今夜はドロドロに甘やかしてやりまさァ」
「……飯もテメーの奢りだからな」
「勿論」
 とりあえず機嫌は治ったらしい。いつも通りの土方さんだ。
「それにしてもアンタが自分の誕生日覚えてるなんて珍しい事もあるもんですねィ」
「……誕生日にかこつけて毎年嫌がらせされてたら嫌でも覚えるだろ」
 嗚呼、本当に素直じゃねェ。本当は恋人として初めて迎える誕生日だから覚えてたクセに。
 そんな所も愛しくて再びその黒髪に唇を寄せようとした唇は、黒髪ではなくいつの間にか此方を向いていた土方さんの柔らかい唇に触れる。

「今日は甘やかしてくれるんだろ」


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