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狐忠信  〜義経千本桜より〜
5部分:第五章
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第五章

「まさかここに潜んでいたとは」
「この時を待っていた」
 彼はその手の長刀を握り締めながら言うのだった。
「ここで貴殿から一族と帝の仇を討つ為にな」
「帝!?」
 帝と聞いて義経の表情が変わった。
「今帝と言ったな」
「そうだ。それがどうした?」
「帝ならここにおられる」
 彼はこう教経に告げたのだった。
「ここにな」
「馬鹿を言え。帝はもうお隠れになられた」
 教経はそう思っているのだった。
「偽りを言うとは貴殿も落ちたものよの」
「嘘ではない」
 しかし義経はそれを否定する。
「私が今まで嘘を言ったことがあるか」
「今言ったのがそれではないのか」
「違う」
 それも否定するのだった。
「それは断じて違う」
「そうか。そこまで言うならばだ」
 教経もそれを受けて言ってきた。構えは解かず間合いを少しずつ狭めていっている。静も忠信もそれを見て構えている。狐も何時でも術を出せるように階段の下で構えている。まさに一触即発であった。義経と教経も館の上と下で睨み合っているのだった。
「見せてみよ。その証を」
「帝をか」
「そうだ。生きておられるのだな」
 彼はこのことを義経に対して言ってきた。
「ならば帝をここに」
「忠信、静」
「はい」
「何でしょうか」
「館の奥へ行くのだ」
 こう二人に命じるのだった。
「そこから帝をこちらへ」
「はい、わかりました」
「それでは」
 二人はそれに従いまずは障子を開け館の中に入った。義経はそれを見届けてからそのうえでまた教経ニ対して言うのであった。
「少し待っていてくれ」
「まことに帝がおられるのだな」
「そうだ」
 このことをはっきりと告げるのだった。
「それは確かなことだ」
「まさか帝が生きておられたとは」
「知盛殿が守っておられた」
 あの平家一門きっての傑物であった彼がである。
「私があの方から譲り受けたのだ」
「そうであったのか」
「だが。知盛殿はだ」
 ここで義経の顔が残念なものになった。
「自ら命を絶たれた。立派な最期だった」
「そうか」
 教経はそれを聞いて述べた。
「亡くなられたか」
「だが帝はおられる」
 このことをあらためて教経に告げるのであった。
「だから安心してくれ」
「わかった。ではまずは待とう」
 こうして彼は義経の言葉を信じることにした。そうして暫くすると。
 二人が戻って来た。その二人の間にいたのは。小さな美しい顔立ちのそれでいて気品に満ちた少年であった。教経はその方のお顔を見てすぐに言った。
「帝・・・・・・」
「教経か?」
「はい、そうです」
 満面の笑顔でその帝の御言葉に答える。
「帝、お久しゅうございます」
「無事で何よりだった」
「はい」
 
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