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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第三話
I
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バロは欠かせない。それなのに、奏者どころか肝心の楽器がないのだ。
 しかし、釘宮は二人へニッと笑って返した。
「もう完成して、明日には来るよ。」
「はぃ?」
 釘宮の言葉に、鈴野夜もメフィストも間の抜けた返答をするしかなかった。
 チェンバロ…こいつは意外とお高い。小型スピネットであれば五十万程度だが、一段ないし二段鍵盤の一般的なチェンバロはニ百〜三百万程になってしまう。そう易々と購入出来る代物ではないのだ。
 それを…もう注文して作らせてた挙げ句、明日には搬入すると釘宮は言ったのだ。その代金…一体どこから捻出したのやら…。
 それを聞いた鈴野夜とメフィストは、改めて釘宮の恐ろしさを痛感した。そして…断ることさえ不可能だと悟ったのだった。目の前にいる釘宮が目を輝かせてウキウキしているのだから…。
「もしかして…まぁ君がチェンバロを…?」
「当たり前だ。」
「…まぁ君…演奏出来たっけ?」
 鈴野夜は記憶を辿ってみたものの、どうもそれらしい記憶がない。そのために敢えて釘宮に問ったのだが、そんな鈴野夜に釘宮は何とはなしに返した。
「何言ってんだよ。僕は八百板先生に教えてもらってたんだぞ?」
「は?あの藤崎にも教えたことのある?」
「そう。お前、メフィストとしょっちゅうどっか行ってた時期があったろ?僕が大学一年から三年の時。」
 そう言って釘宮は鈴野夜の顔をジトッと見据えた。
 そう言われると、その時にせっせと自分の仕事をしていた…と鈴野夜は思い出してチラとメフィスト見てみると、彼は半眼で「あれ?知らなかったの?」と言わんばかりの表情をしていた。
「ひょっとして…私だけ知らなかった…のか?」
「俺は知ってたぞ?まぁ君いつも同じとこ通ってたし、チェンバロ譜持ってたしな。」
 メフィストにまでそう言われ、些か傷心の鈴野夜だった…。
 さて、翌日には待望のチェンバロが釘宮の部屋へと搬入された。
 釘宮は十畳部屋を二部屋使っている。こう考えるとかなり広い様に思うが、実際は三階建てで高さがあるのだ。三階に鈴野夜とメフィストの部屋があり、二階は全て釘宮が使っているという具合だ。
「まぁ君…階段広く作ってあるのって…楽器のため?」
「そうだ。狭いと楽器を傷めてしまうだろ?コントラバスすら怖くて入れられないじゃないか。」
 一体誰が演奏するのやら…部屋へ入ると、そこにはコントラバスどころか、一揃いの弦楽器にトラヴェルソやリコーダー、バロック・トランペットにナチュラルホルン…何故だがオーボエ属のオーボエ・ダモーレやオーボエ・ダカッチャなど、このままここでバロック音楽の大半の作品が演奏出来る程に溢れていた…。
 その中へチェンバロを運び込んだ楽器店の店主も目を丸くし、思わず「こりゃ一財産だねぇ…。」と溢してした。さすがのメフィストですら
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