暁 〜小説投稿サイト〜
ある少女の話
ある少女の話
[2/14]

[1] [9] 最後 最初
た。
「ほお」
 僕は洋館を見上げて思わず声をあげた。
「こちらも素晴らしい」 
 緑の蔦に飾られ、窓は太陽の光を反射していた。そして白い壁が輝いていた。まるで神殿の様に神々しい姿であった。
「そうでしょうか」
 彼女は謙遜してそう答えた。
「ただ古いだけの家ですが」
「いえ」
 だが僕は彼女のその言葉を否定せずにはいられなかった。
「こんな美しい家はそうそうありません」
 神戸にもこんな素晴らしい洋館はなかった。僕は日本の洋館が好きだ。だからよく見る。しかしその中でもこの洋館は一際美しいものであった。
「お気に入られましたか」
「はい」
 僕は答えた。
「是非とも中を拝見させて下さい」
 無意識のうちにそう申し出ていた。図々しい申し出であるがその時はそういわずにはいられなかったのだ。
「どうぞ」
 彼女はそれを快く認めてくれた。そしてその手で家の扉を開け僕を導き入れてくれた。
「どうぞ」
「はい」
 僕は中に入った。そこは中よりもさらに美しかった。まるで薔薇の園の様に色取り取りの薔薇達が飾られ、そして絹のカーテンと質素ながら豪華な装飾で彩られていた。バロック調であるが決して華美過ぎない。実に美しい家の中であった。
「・・・・・・・・・」
 僕は言葉を失った。そのあまりもの美しさに言葉を出すことができなかったのだ。
「どうでしょうか。汚い家ですが」
「いや」
 僕はそうだとはとても思えなかった。
「こんなものは今まで見たことがありません」
「そんな大袈裟な」
「嘘ではありませんよ。本当に」
 僕は夢を見るような気持ちでそう答えた。
「これ程だとは思いませんでした」
 心の底からそう思っていた。
「またそんな」
 少女は謙遜した笑みを浮かべた。
「大袈裟ですわ」
「いえ」
 だが僕はその言葉をまた否定した。
「本当です。そしてあそこに見える空と海」
 そこには崖の入口から見えるものとは比較にならない程美しい空と海があった。
「まるで絵のようではありませんか」
 確かにそう見えた。それはまさに一枚の絵であった。
「白浜の海は綺麗だとは知っていましたが」 
 僕は言葉を続けた。
「ここまで美しいのは今まで見たことがありません」
「そうなのですか」
「ええ」
 僕は答えた。
「それでしたら」
 今思えばここで断れなかったのであろうか。いや、無理であっただろう。もう僕はこの空と海、そして洋館に心を奪われてしまっていたのだ。
「暫くこちらに留まっては頂けませんか」
「ここにですか」
「はい」
 彼女は頷いた。
「貴方さえ宜しければ」
 それは僕が断る筈が
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ