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開封の夢
2部分:第二章

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第二章

 当然他の食材も料理も見事なものであった。銀の皿の上に置かれているのは河の幸だけではなく海のものもあれば山のものもある。菓子も多くある。如何に繁栄を極める宋の都といえどこれはあまりに贅沢であった。しかも馳走や酒だけではなかったのだった。
「そしてです」
「まだあるのですか」
「世の中には馳走や酒の他にも楽しみがあるではありませんか」
 男はここでまた満面の笑みを見せてきた。
「違いますかな」
「といいますと」
「これです」
 ぽんぽん、と手を叩くとそれで部屋の隅に控えていた者達が音楽を奏でそのえ舞まではじめた。それはそいじょそこいらの芸姑のそれとは全く違いまさに美麗であった。音楽も同じでこれだけの曲を奏でる者達はこの宋でも滅多にいないものだと思われた。
「歌舞弦曲です」
「これもですか」
「こちらはお好きですか?」
「はい」
 実は今まで貧しい書生暮らしだったので音楽には疎かった。しかしそんな彼が耳にしても見事な音楽であったのである。
「これもまた」
「馳走や美酒とどちらがよいでしょうか」
「比べられるものではありません」
 こう答えるしかなかった。
「とてもとても」
「左様ですか」
「美食は美食、音楽は音楽です」
 男の言葉である。
「どちらもあってこそなのです」
「そういうものなのですね。それにしても
 林回も音楽を聴きながら気付いたことがあった。
「この音楽も舞も」
「素晴らしいものでしょう」
「聴けば聴く程、観れば観る程ですね」
 彼もそう思うのだった。
「これはまた」
「これがまことの贅沢なのですよ」
「これがですか」
「美酒と馳走に囲まれそうして舞と音楽に親しむ」
「歌を詠んでみたくなりましたが」
「どうぞどうぞ」
 歌を詠もうと思うとそれも勧められた。
「どうぞお詠み下さい」
「はい、それでは」
 歌を詠う。するとそれを褒め称えられ自分でもいい気持ちになる。そうしてまた楽しみさらにその気持ちを嬉しいものにさせるのであった。
「それでですね」
「ええ、今度は」
「まだ一人身でありますね」
 男はここで畏まった態度になって林回に尋ねてきた。
「確か」
「はい、そうですが」
「ならです」
「ええ。それなら?」
「これ」
 男は林回にこう言ってから両手をまたポンポンと叩いた。すると芸姑達なぞ比べようもない程に美しい少女が部屋に入って来たのであった。
 切れ長の目は黒く涼しげであり黒い髪は絹を思わせる。肌は白く頬は紅に染まっている。服は紅でそれがその美貌に実によく合っていた。その少女が入って来たのである。

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