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『ユノくんは、もう《投刃》なんかじゃないよ。人殺しなんかじゃ―――ないよ』

「……チッ」
部屋の中で行われている会話に静かに耳を傾けていたリリアは、パーティメンバーである少女の慈しむような声と、それを聞いた相手のすすり泣く気配を感じ、一人舌打ちした。
わざわざ二人の間に入って行く気にもなれず、扉に押し当てていた耳を離すと、そのまま脇へと移動し、壁を背にもたれかかった。

「あの馬鹿……、下らねぇこと気にしやがって」
煉瓦造りの壁に体重を預け、眉間に皺を寄せながら一人呟く。
“あの馬鹿”というのは他でもない、彼の所属するパーティのリーダーである小柄な投剣使いのことだった。


────────────


今朝方、彼はパーティメンバーの少女から、今日一日の攻略を中止するとの連絡を受けた。
知り合って以来、一日たりとも攻略を欠かすことのなかった彼女達が、こうして丸一日休むというのは初めてのことだった。

これが現実世界の話であったのなら、風邪でも引いたのかと納得していたことだろう。
しかし、彼らが身を置くのは現実世界ではなく、『ソードアート・オンライン』というゲームの世界だ。仮想体《アバター》である彼らの身体は、現実の身体のように病原菌に侵されるということはない。
ましてやこの世界では、その気になれば食事や睡眠すら取らなくても―――その分、強烈な空腹感・眠気に苛まれることにはなるが―――死ぬことはないのだ。

単に今日は気分が乗らないだけなのかとも考えたが、彼女達に限ってそれはないと思い直した。
彼女達―――周囲から《投刃》などと呼ばれている小柄な投剣使いと、一たび戦闘になると嬉々として両手斧を振り回す小学生(本人曰く高校生との事らしいが、非常に疑わしいところである)の少女、という奇妙な組み合わせの二人組は、このゲームからの脱出を目指すべく、最前線で戦う攻略組として、日々ダンジョンの探索に精を出していた。
例え他の攻略組プレイヤー達から忌避の目を向けられようと、一日も欠かすことなく―――だ。
そんな二人が急遽、珍しく攻略を中止した―――それもこうして土壇場になって取り止めたからには、そうせざるを得ないほどの、よほどのことがあったに違いない。
元来、心配性すぎるきらいのある彼は、一人で考えれば考えるほど、二人の身に何かあったのではないかという懸念が大きくなり、しまいには居ても立ってもいられなくなってしまったのだった。

矢も盾も堪らずに部屋を飛び出した彼は、二人が宿泊している最前線―――第30層主街区『エルニード』の宿屋へと足を運んだ。
常に移り動く最前線での戦いに身を置いている彼女らは、リリアのように決まった街で寝泊りしているわけではない。
攻略が進んで上の層へと前線が移動する毎に、その都度、最前線の主
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