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剣の丘に花は咲く 
第十五章 忘却の夢迷宮
第一話 定まらぬ未来
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「うっさいこの馬鹿ッ!! いい加減当たりなさいッ!!」

 無数の黒い塊が、空気を抉る寒気のする音を響かせながら街中を飛び交う。通りを歩く街の者たちは、この追跡劇を見ると悲鳴を上げながら逃げ惑い、何処ぞの店の中に飛び込んだり通路の端に身体を縮み込ませ頭を抱えて震えていた。
 そんな風に街を現在進行形で恐怖のどん底に突き落としている者の名は、衛宮士郎(草食獣)遠坂凛(あかいあくま)と言った。










「……隊長の事なんだけどさ」
「……ああ」
「あんな凄い美人の彼女がいると知ってからずっと爆発すればいいのにとか思ってたんだけど、さ……」
「……ああ」
「流石にあれは同情するね」
「そうだな」
「そうだね」
「…………」

 一際巨大な黒い塊を後頭部に受けた士郎が、石畳の上を顔面で華麗に滑っていく姿を街道に張り出した酒場のテラスから眺めていた水精霊騎士隊(オンディーヌ)の面々。最初はニヤニヤと意地の悪い笑みを口元に浮かべながら、これ以上の酒のツマミはないとばかりに上機嫌にワインの入った杯を傾けていたギーシュたちであったが、ガンドを喰らいダウンした士郎を宙に蹴り上げ、頂肘、川掌、冲捶、鉄槌、鉄山靠、閻王三点手、暗勁、寸勁、止めに猛虎硬爬山と流れるような連撃を食らい吹き飛ぶ士郎の姿を見るに連れ、口元に浮かんでいた笑みは苦笑いから引きつった同情の笑みと変わり、最終的には恐怖の表情へと変わっていくことになった。

「あれ、いくら隊長でも死んだんじゃないかな?」
「そうだな。“トオサカリン”だったか、凄まじい“コンフー”だ。流石の隊長でもアレを喰らっては無事では済まないだろう」

 レイナールが震える指先で傾いた眼鏡を直す横で、鍛え上げられた肉体を恐怖に細く震えさせながら、先程から感じる異様な喉の渇きを癒すため既に空になった杯をあおるギムリ。

「いや、昨日地面に倒れた所を顔面に“シンキャク”喰らっているところ見たけど生きてたから大丈夫だとは思うけど……そこのところ君はどう思う?」

 恐怖を紛らわすかのように空になった杯を何度もあおるギムリに新しいワインを注ぎながら、ギーシュが先程から黙ったまま料理をパクついているマリコルヌをチラリと見る。
 マリコルヌは自他共に認めるМであり、被虐について語らせれば学院でも随一であった。
 専門家の意見はどうなのかと、ギーシュたちの視線が一気に集まる。

「はっ……だからお前たちは未熟なんだよ」
「どういうことだ?」

 ガブリッ、とフォークに突き刺したソーセージを噛みちぎったマリコルヌが、半分になったソーセージが突き刺さったままのフォークの先を、石畳の上に俯せに倒れた士郎の後頭部に足を乗せてぐりぐりと踏みしめている凛に突きつけた。

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