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極短編集
短編8「僧侶の作った地蔵」
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その力がありませぬ。あの子どもたちが亡ぐなったら、この村は全滅でえ」

 と、長老は言った。
 墓場についた。そこには、人骨が一体ずつ集められ、かたまりになっていた。そして、それが点在していた。

「本当は埋めてやりたいのだが、掘りにくい土地だでね、死んだ者をここにおいて、鳥や獣に喰わせるしかないんですじゃ」

 僧侶は、点在する骨の集まりの前にいっては、短く経を唱えたのだった。
 お経を唱え終え村に帰ると、一人の男の子が僧侶に近づいてきた。男の子は……

「有り難うごぜえます」

 と、頭をさげ、木の皮を僧侶に出した。長老の話によると、この間、両親とも亡くなったそうだ。木の皮は、両親にお経を唱えてもらったお礼だった。

「小僧、それはもらえぬ。礼だけでいい」

 と、僧侶は言うと、男の子の頭に片手をのせ数珠を握り、お経を唱えたのだった。

「所で長老。この村の者は、なぜこうも礼儀がよいのじゃ?」

 と、僧侶は長老にたずねた。

「はあ、なんともわかりませぬ」

 と、長老は言った。
 僧侶は各地を回って来た。人が人を騙し殺し、力が正義なのを見てきた。親が子を喰らい、子が親を喰らうのも見て来た。なので僧侶は、この村の人々が、いつにましても不憫でならかった。
 僧侶は長老にお願いをした。

「この村で一番、切れる物を持って来て欲しい」

 それからしばらくして、この村で一番切れる物……『鎌』が持ってこられた。

「では始める」

 そう言った僧侶は、鎌を手に取ると、その辺に転がっていた太い木を使って、何やら掘り出した。陽も暮れ、夕刻になった頃。

「出来た」

 僧侶の前には木で出来た、お地蔵様がいた。とにかく削って作られたお地蔵様は、かろうじてお地蔵様と分かるものだった。

『この村の人々なら大丈夫であろう』

 そう僧侶は思うと、地蔵に向かって経を唱え始めた。
 次の日、長老が目を覚ますと、僧侶の姿はなかった。それからのことだ。お地蔵様がおかれたその日から、お地蔵様の前に見たこともない物が現れるようになった。それはとても美味しく、栄養のある物ばかりであった。

◇◇◇

『あれ?そういえば、お地蔵さんがなくなってるなあ』

 また父親が、散歩をしている時の事だった。あったはずの地蔵がなくなっているのだ。

◇◇◇

 村の人々が、だんだんと元気になり、村も元通りになった頃。地蔵は朽ち果て……



 土に還ったのだった。

おしまい


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