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極短編集
短編1「箱庭の中の夢」
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 僕の乗った船は、ゆっくりと進んでいる。船は小型で、20人くらいが乗れるだろう。3人座りの長椅子が6つ、前から並んでいて、後ろに操縦席の小屋があった。
 7月の風は乾いていて、とても涼しい。船は、音一つせずに静かに進んでいる。船から手を垂れると、指先に『麦の穂』が触れた。僕の目の前には、どこまでもどこまでも麦の平原が広がっていた。
 船は、ゆっくりゆっくりと進む。麦の平原に浮かびながら。

 船が止まった。船体は、麦の穂に半分ほど沈んで浮いていた。

『この下は、いったいどうなっているんだろう?』

 僕がのぞきこんでいると声がかかった。

「気をつけて下さいね。この下は、とてつもなく深いんですよ。落ちたが最期です」

 船長が言った。見ると麦の茎は、どこまでもどこまでも伸びていて、底無しだった。
 
船のへりは、碧く塗られていた。船体には『けんたうるす』と、名前が書いてあった。 僕は、頭を上げて空を見た。どこまでも深い、蒼い空が広がっている。僕は昔に見た、南国の空を思い出した。
 僕は、白い襟なしの木綿のシャツを着ていて、浅葱色のスラックスと、黒い革靴を履いていた。

『僕は、何をしていたんだっけ?』

 ふと、思い返していた。そうそう、地球の日本に生まれて、暮らしてたんだよなあ。あの毎日に、なんの意味があったのだろう? 穏やかな気持ちから、思い起すと、あの慌ただし生活が滑稽に感じた。
 先に来ていた連中が作った、訳分からないルールだらけの世界。結局、あの世界で「生きてる」事を感じて生きてる人間は、何人いるのだろう?

『まあ、そういう世界なのかもなあ……』

 僕は、見上げた空の蒼さに目を細めた。

 船には、僕の他にも5、6人いた。僕の2つ先の椅子に、大きなフチの帽子をかぶった女性がいた。淡い紫色のワンピースの服。モネの描く絵に出てきそうな感じの女の人だった。
 そのとなりには、機関車トーマスに出てくる、駅長みたいなオッサンが座っていた。口髭、ハット帽、黒の背広を着ていて、手には杖を持っていた。顔をよく見ると、深いシワがあり、かなりの歳なのかもしれない。背筋はよく、シャンと座っていた。

 船は再び動き出した。僕は、麦の平原の彼方に目をむけた。
 
『カジキ?』

何かが跳ねている。

「あれは、なんですか?」

 僕は、船長に聞いた。

「あれは、鳥です」

 船長は答えた。

「鳥?魚じゃなくて?」

「ペンギンみたいのが泳いでいるんですよ」

 前の席に座っている、トーマスの駅長が言った。

「この麦の中に巣を作っているんですが。時々、空を飛ぶんですよ。懐かしがって」

「そうなんですか」

 と、僕は答えた。
 遠くに入道雲が湧き、その下
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