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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第一話
II
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の指示だけで釘宮がグッタリしてしまう有り様で、大崎がその穴埋めをしている奇っ怪な状態なのだ。
「…つ…疲れる…。」
「オーナー。そろっと一段落出来るんで、少し休んで下さい。こいつらの面倒は見とくんで。」
 堪り兼ねた大崎は、釘宮へとそう言った。大崎もこの状態には苦痛以外の何も感じなかったのだ。
「悪いな…じゃ、少し休んでくるよ…。」
 そう言って釘宮は裏口から外へ出て、そこにあった段ボールの上に腰をおろして煙草に火を点けた。
「…ふぅ…。ったく、何でこうも使えんのか…。」
「何が?」
「うわっ!」
 一人でぼやいていた時、直ぐ横から声を掛けられて釘宮は飛び上がった。横を見ると、そこには不思議そうに釘宮を見る女性が立っていた。
「楓さん!何でこんな時刻にこんなとこ居るんですか!?」
「主人にモーニング持ってこいって言われたのよ。もうそろそろ出来るでしょ?」
「洋のやつ、また楓さんに…。分かった、今用意するよ。ここじゃなんだし、中に入って待ってて。」
 そう言って女性…楓を事務所へと入れ、釘宮はモーニングを用意し始めた。
 彼女の名は楠木楓で、職業はオルガニストだ。その夫、楠木洋と釘宮は中学からの腐れ縁で、そのため楓も釘宮の店には良く来ている。
 楠木洋だが、彼は西洋文学と神学の学者で、家では資料と論文の山に埋もれた生活を送っている。何とも不摂生な生活だ…。
「モーニングを取りに来たってことは、今日は二人とも出るんだね?」
 いつの間にか事務所の椅子を持って厨房の前に来ていた楓に、釘宮はもう慣れたと言った風に問い掛けた。
 大崎は苦笑いしているが、その他二名は不思議そうな顔をしている。
「そうよ。私はこれからフランス。主人は京都の学会に出るんですって。」
「そんなとこだと思ったよ。あれ…確か藤崎氏も今、フランスなんじゃ…。」
「そうなのよ!今回、藤崎さんのオケでヘンデルのオルガン協奏曲をやるのよ!ま、私の後に藤崎さんがクープランとバッハのリサイタルを開くんだけど、私そのチケットとをやっと手に入れたの!」
 あまりにも摩訶不思議なことを宣う楓に、釘宮は些か顔を引き攣らせて問った。
「え…?藤崎氏だったら…言えばくれたんじゃ…。」
「とんでもないわ!わざわざチケットを買って聴きに行く…それが良いんじゃないの!」
 いよいよ釘宮の眉はピクつき始めた。全く理解不能なのだ。
 確かに、釘宮も音楽は好きだ。店に"喫茶バロック"なんて付けるのだから、嫌いでは付けられない。店にはいつも音楽が流れてはいるが…やはり楓には同調しかねると言った感じだ。
 この楠木楓と言う人物は、藤崎京之介という音楽家を敬愛して止まない。彼は鍵盤楽器奏者であり指揮者でもあるが、リュートの専門家としても有名だ。時折、ヴァイオリンやヴィオラ・ダ・ガンバ
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