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死に損ないロマンス
死に損ないロマンス
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[1] 最後

「土方さん、死んで下せぇ」
 静かに殺人予告をする声に色はない。
 獲物である土方を射抜く蘇芳色も、決して光を映そうとしない。

 いつからか――否、大将である近藤がこの世から消え、二人の世界が完全に壊れてから、沖田はこうして本気で土方を殺しにかかるようになった。
 全てを失って、土方が大好きだった沖田の瞳は光どころか何も移さなくなった。

 ――恋人である、土方さえ。

(総悟、お前は……)
 自身の刀で沖田の刀を必死に受け止めながら眉を寄せる。逸らした切っ先が掠めて頬に赤い筋が走った。
「……ッ総悟」
「死ね土方ぁあああ!!」
 ガキィイイン!
 土方の手から刀が弾かれる。
(俺は、まだ……)

 容赦なく振り下ろされる刃。




「――ッ人の話を聞けぇええええ!!」




「?!!」

 ドスッッ!

 場に不釣り合いな怒号に、何より目の前の光景に沖田の目が大きく見開かれた。
 沖田の蘇芳色が、初めて土方の姿を映した。

 ――沖田の刀を右手で受け止めた土方を。

 土方の右手と刀はドクドクと溢れ出る鮮血で瞬く間に赤く染まる。
「土方さ……ん、アンタ……」
 絶句する沖田に土方は安堵したように息を吐いた。
「ハッ、やっと目が覚めたかよ大馬鹿野郎。今のお前はこうでもしねェと……いや、こうしても止まる確証はなかったか」
 土方は汗を流しながら自嘲めいた笑みを浮かべる。
 刀からは手を離さず、寧ろ最初よりきつく握られていて、沖田は狼狽える。
「確かに俺達の世界はもうぶっ壊れた……俺もテメーと同じであの人がいないこの世界に未練もねェ」
「ッじゃあ!」
「だがなァ! 思っちまったんだよ……まだお前がいる」
「……!」
 土方を映す蘇芳色が揺れる。
 土方は震える声でぽつぽつと本音を零した。

「俺だけ残ったなら何の迷いもなく死んでたよ、最期まで暴れてやるけどな」

「お前が生きてるなら俺もきちんと最期まで生きようと思ったんだ。そう簡単にお前を残して逝ってなんざやらねーよ」

「……だがお前は俺を殺してテメーも死のうとしやがった……それは、俺はお前の最後の支えになってやれなかったって事だろ」

「……俺は、真選組最後の砦にも、恋人の心の支えにもなれなかったんだよ」

「近藤さんに比べりゃ小さな存在でも、それでもお前を支えてやりたかった。これ以上傷付いて壊れちまわねーように」

「……俺は、お前がいるなら、お前が生きていてくれるなら、壊れたこの世界でも何とか己を保っていられんだよ」

「だがお前は違ったんだろ? 別に責める気はねェよ……あの人が俺達の世界そのものだったんだ」

「殺したいなら殺せ。近藤さんを護れなかった、何の役にも立たなかった俺を。粛正されるなら総悟、お前が良い」


              
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