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愚者の英断
愚者の英断
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[1] 最後


 大小問わず、人生は選択の繰り返しだ。全くもって全くその通りだと沖田は考える。
 では自分達は何か大切な選択を間違えたのだろうか。大切な貴女が何故ここにいないのだろう。死んだ姉の祭壇の前で自問自答を始めてからもう三時間が立つ。答えは分かりきっていたがまだ納得が行かない。
 振り返らないと、約束したのに。人間の心はそう簡単に出来てはいない。
「……姉上」
 正座して俯いたまま、祭壇に向かって静かに語りかける。
「僕もそろそろ選択しようと思います。貴女が遂げられなかった想いを僕が遂げます。貴女の代わりじゃなくて、沖田総悟として。こんな馬鹿な弟でごめんなさい」
 最後まで孝行出来なくてごめんなさい、と膝の上で拳を握り締めてから立ち上がる。その瞳にはもう迷いはなかった。
 最後に少しだけ振り返って襖を閉める。遺影の中の姉が優しく微笑んだ気がした。




「土方さん」
 目的の部屋の前に立って声をかける。普段の沖田ならば絶対に声等かけなかっただろう。だが今日は違う。それだけ今日は特別だった。
 返事はない。いるのは分かっているので少しだけ待ってから襖を開けて中に入る。
 真っ暗な室内の文机の前に、目的である部屋の主はいた。灯りも点けず煙草も吸わず、ただ座ったまま呆けているようにも見える背中は随分と小さく弱々しく見えた。
 彼は泣いているのか、それとも。
「……何の用だ」
「大事な話がありやす」
 土方の肩がピクリと僅かに揺れたが、構わずにその後ろに正座した。背中をまっすぐに見据える。
「急ぎか」
「へい」
「……分かった」
 土方は小さく息を吐き、ようやく沖田の方を振り返る。だがその顔は下を向いたまま沖田を見ようとはしなかった。暗闇のせいでその表情すら窺えない。

「土方さん。アンタの選択は、決断は、絶対間違いなんかじゃねェ」

「……!」
 土方の肩が震える。
「姉上が死んでからずっと考えてたんでさァ。俺やアンタの選択が本当に正しかったのかとか。姉上を救えたんじゃねーのかとか」
「……」
「でもねィ。結局アンタが出した答え以上の選択は、なかったんです。何ひとつ。きっと何をしても病気の進行をあれ以上遅らせる事すら出来なかった」
 未だ顔を上げない土方を沖田はまっすぐ見据えながら話す。
「姉上の幸せを一番に願ってくれてたのは俺じゃねェ、アンタだ。俺は姉上の幸せを願いながら、結局俺の幸せを優先してきた」
「それは……ッ」
「今なら言える」
 顔が見えない、この暗闇の中なら。
「土方さん、姉上の幸せを願ってくれてありがとうございやす」
「…ッ総悟……俺、は……お前はッ!」
「アンタは正しい。俺が保証してやらァ。だからもう自分で自分を否定すんのはやめにしなせェ」
 そこまで言い終えて沖田は深呼吸する。自分の選択を告げるために。
           
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