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未亡人のミサ
5部分:第五章
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第五章

 それは紛れもなく彼女の結婚指輪であった。疑いようがなかった。実際に彼女がそれと手に取って左手の薬指にはめると。他の誰よりも奇麗に収まった。これこそが何よりの証拠であった。彼女のものに他ならないということの。絶対の証拠なのであった、
「これで間違いありませんね」
 牧師は強張った声で一同に述べた。
「マシューさんの仰ったことは事実です」
「ええ、間違いありません」
「ではやはり深夜にミサが」
 結論はこれであった。彼女の言う通り深夜にミサが行われたのだ。お盆の上の彼女の指輪が何よりも雄弁にこのことを物語っていた。
 だがここで。大きな疑問が人々の胸に残った。村人の一人がそれを口にするのだった。
「しかしだ」
「どうした?」
「いや、何故ミサが行われたのだ?」
 最も肝心なこのことを言うのだった。
「深夜に。しかも」
「しかも?」
「誰が行ったのか」
 この謎もあった。
「教会には悪しき者は入ることができない」
「ああ」
 他の村人達もその言葉に頷く。
「だとすれば悪い存在である筈がないが」
「おそらくそうです」
 その仮定を肯定したのは牧師であった。
「牧師様」
「おそらくは。マシューさんの御主人のミサを二回行えとうことなのでしょう」
「二回ですか」
「一度は御主人の為」
 まずはその本人の為だというのである。
「そして二度目は」
「誰の為でしょうか」
「マシューさんの為ではないかと思います」
「マシューさんの為ですか」
「神はいつも見ておられます」
 そのマシューを見ての言葉だった。
「いつも。マシューさんのことも」
「私のこともですか」
「マシューさんはいつも慎ましく清らかに生きられています」
「確かに」
「それはその通りです」 
 このことに関して誰も異論はなかった。彼女が敬虔な信仰心を持っていて非常に親切で善良な人間であるというのはもう誰もが知っていることだったからだ。
「ですがどうしてそのマシューさんの為に」
「ミサを」
「祝福なのでしょう」
 これが牧師の考えだった。
「祝福ですか」
「そうです。そのマシューさんへの祝福です。ですから次のミサは」
「御主人だけでなく」
「マシューさんへのものでもあります」
 こう一同に告げた。
「そのミサを今から行いたいのですが。宜しいでしょうか」
「はい、是非共」
「それが神の思し召しなら」
「マシューさんの為に」
 誰も反対しなかった。これで話は決まった。こうして皆マシューを優しく取り囲み彼女を教会の中に導いた。マシューの為でもあるミサが。今行われるのであった。物静かで善良な未亡人の為のミサが。


未亡人のミサ   完



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