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土蔵
3部分:第三章
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第三章

「まあ来てみればわかる」
「来てみればか」
「それでわかるのか」
「そういうのか」
「そうじゃ。わかる」
 こう彼等に話す庄屋だった。
「そうなればな」
「何かわからないけれど行くか」
「飲んだし食ったしな」
 それで気が大きくなってだ。彼等も行くのだった。
「鬼が出るか蛇が出るか」
「楽しみになってきたよな」
「一体何が出て来るかな」
 彼等も庄屋に案内されてその土蔵に向かう。その土蔵は。
 外見は何の変哲もない白い壁に黒い三角の屋根の土蔵だ。扉も木製でだ。何の変哲もない。本当にただの古い土蔵でしかない。
 だがその土蔵の前でだ。庄屋は言うのだった。
「中に入ってじゃ」
「うん、中にだよね」
「中に入ってね」
「それでだよな」
「楽しむのじゃ」
 そうせよというのだった。
「わかったな。充分にな」
「本当に何なのかな」
「ちょっとわからないわよね」
「一体何なのかね」
「けれど。庄屋さんが中に入れっていうから」
 彼等にしてみれば庄屋の言葉に頷くだけだった。こうしてだった。
 そのうえでだ。彼等は庄屋が開いたその土蔵の扉、奥は暗闇で見えないその中を潜った。そうしてその中に完全に入るとであった。
 そこは村だった。彼等のいる村だ。しかしそこは。
「あれっ、何かが違わないか?」
「何で土蔵の中が村なんだ?」
「俺達の村で」
「しかも。まだ寒いのね」
 彼等は高校を卒業したばかりだ。季節はまだ雪も降る様な状況だ。実際に村にはまだ雪もだ。幾分か残っている様な状況だったのだ。
 しかし今の村はだ。どうかというとだった。
「桜咲いてるし」
「梅もあるし」
「何で春なんだ?」
「何か」
「ほっほっほ。ここはそうしたところなのじゃ」
 彼等の後ろからだ。庄屋の声がした。彼等がそちらを振り向くと。庄屋ではなくだ。
 小さな丸坊主の子供がいた。くすんだ色の和服だけが庄屋のものだ。その子供がだ。笑顔でこう彼等に話すのであった。
「わし等の村じゃがな」
「あの、何で庄屋さんが子供なのかな」
「それが滅茶苦茶わからないけれど」
「というかあんた庄屋さんだよね」
「そうだよね」
「そうじゃ。その通りじゃ」
 子供はその通りだと彼等に返す。
「わしじゃよ」
「やっぱり庄屋さんか」
「けれどな」
「別人にしか思えないよな」
「っていうか子供じゃない」
「どう見ても」
 彼等は怪訝な顔で言っていく。しかし庄屋はだ。
 その彼等に対してだ。笑顔で、子供の純粋な笑顔でこう言うのだった。
「あんた達もじゃ」
「俺達も?」
「俺達もって?」
「どういうのよ」
「御互いを見てみるのじゃ」
 庄屋ではなくだ。彼等自身をだというのだ。
「そうすればわかるぞ」

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