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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第4章 “妹達”
1.August・Night:『Passage...Lost』
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認めて。
 そのせいだろうか、反応できなかったのは。例え万力じみた腕力で頚を絞られたと言えども。屍食鬼どもの運んできた血臭に紛れて気付かなかった────人造の臭いに。


「ッ────何を!」


 肌理(キメ)細かで、ひやりとした感触が唇に。微かなミルクのような香りが、鼻孔を擽って。流し込まれた、()()()()()()()()モノに────技尽くで、少女を振り払う。


「しや、がァ─────る」


 刹那、世界が回る。全色の絵の具を一斉に混ぜたパレットのように、まるで二日酔いの最悪レベルのものを濃縮還元したような。とても立ってはいられない。
 膝を折り、両手をコンクリートに突いて這いつくばって。漸く、洗濯機の中で洗われている衣類の気分となる。


 先程見た『異形』のように、口許を押さえた姿で。最早顔を上げて、彼女を見る事すら出来ずに嘔吐感を呑み込む。


「どォだァ、“悪酔葡萄酒(バッドトリップワイン)”の味はァ? 聞こえてても、意味なンて解かンねェだろォけど」


 その嚆矢を見下ろして、嘲り笑う少女は白いコートを寛げると袖から腕を抜き、フードのみを目深に被って羽織る。覗いたのは、今までコートに隠されていた革製の衣服。


『いい様だな、コウジ……この我を一度ならず、二度までも侮った報いだ……!』


 そして──吹き抜けた、突風じみた風。腐肉のように甘ったるい、瘴気を孕んだ風が吹く。少女の手元に現れた、鉄の装丁の魔導書(グリモワール)が巻き起こした穢れの風が。


『この、“妖蛆の秘密(デ=ウェルミス=ミステリィス)”をな!』


 悍ましき異教の秘技を記した、最後の十字軍の生き残りが著した魔導書が。これで三度、立ちはだかった────。
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