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田園
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第一章

                       田園
 その軍隊が来たこと自体が何かの縁だった。ゴー爺さんはよくそう皆に語る。
「ここにおるのはもうアメリカとの戦争も知らんのが多いじゃろうな」
「話には聞いてるけれどな」
「なあ」
 若い者達はそれを聞いて述べた。彼等は今は田園の側に座ってそのうえで話をしている。彼等日差しが暑くそれを編み笠帽子で防いでいる。田は刈り入れ時だった。黄金に豊かに実った稲を村人総出で刈っている。忙しいが最も楽しい時期である。
「中国との戦争もなあ」
「俺達その後に生まれたから」
「あとフランス軍とも戦争したんだっけ」
 若者達のうちの一人が爺さんに告げてきた。
「あのヨーロッパの連中もいたんだっけ」
「そうじゃ。あの連中が一番弱かったのう」
 爺さんはフランス軍の名前が出て来たところで顔を崩して笑った。そうしてそのうえでさらに話をしていくのであった。昔を見る様な目で。
「一番偉そうじゃったが」
「最初に俺達を支配していたんだっけ」
「確か」
「それで俺達が奴等を追い出してな」
 これは歴史の教科書で知っていることだった。だが実感としては知らない。彼等にとってはもうそれも歴史でのことだったのだ。
「そうだったよな」
「爺さんその頃若かったんだよな」
「そうじゃよ。フランス軍とはわしも戦った」
 爺さんは穏やかな笑みと共に彼等に告げた。
「ちゃんとのう」
「そうだったのか」
「爺さんも銃持っていたのか」
「中国軍とまで戦ったのじゃ」
 ここまで、というのだった。つまり二十年以上戦ってきたのである。
 しかし爺さんはその長い戦いの人生を全く顔に見せてはいなかった。人のいい顔を若者達に見せてそのうえで話しているのだった。
「昔の話じゃ」
「それで今はお百姓さんってわけか」
「銃を捨てて」
「ははは、戦争の合間にいつも鍬を持っておったよ」
 しかし若者達にこう返すのだった。ここは。
「そうして戦っておったのじゃ」
「鍬を持ってねえ」
「それでか」
「今は平和じゃ」
 ベトナムもである。平和そのものだったのだ。これは間違いなかった。
「しかしじゃ」
「しかし?」
「何かあるのか、まだ」
「フランス軍の間に日本軍が来たことは知っておるのう」
 このことを若者達に対して問うてきたのだった。
「それも」
「ああ、そうだったっけ」
「日本軍もな」
 若者達もそれは知っていた。しかしそれも歴史のうえでのことである。
「何かあれだろ?やたら人をぶん殴って」
「無茶苦茶口やかましかったらしいな」
「その通りじゃ。日本軍が一番人を殴りおった」
 このことは爺さんも認めた。
「厳しくてのう。ああだこうだといつも言っておったわ」
「あの日本人じゃ
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