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珠瀬鎮守府
木曾ノ章
その7
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「気づいた時にはこの港だった。ここの艦娘が助けてくれたらしいわ。どう? つまらない昔話だったけど」
 話を聞いた私は暫し返答することができなかった。一年後に現れる嘗ての同胞、漸減作戦によって散っていった大量の艦娘、そうして何よりも心をついたのが。
「赤城は、あんたを助けて逝ったのか」
 今度言葉を失ったのは鳳翔さんのほうだった。彼女は僅かに驚いたふうな仕草をした。
「知り合いなの?」
 知り合いも何も、懐かしい仲だった。こと、私という存在が艦娘となったのは、先に空母“赤城”となった“彼女”に起因する。言うなれば木曾という軽巡洋艦は彼女あってこそ。いつかは彼女と肩を並べ、共に戦場に立つことを夢見ていた。私にとって、赤城は友人だとか同胞という存在だけではなく憧れであり目標だった。戦闘により死んだとは既に聞いていた。その日の夜は枕を濡らして備品をいつくか壊すほどに取り乱した。
 だが、私は頭を巡った言葉を一切飲み込んで、一言だけを選んだ。
「知り合いだった」
 私の記憶にある赤城は、確かにちょっと抜けている部分もあったり、勇敢といえる程勇ましかったわけではない。だが、鳳翔さんから聞いた最期は、正しく私の目標だった赤城という空母のものに違いがなかった。
「そう……もっと先に、話しておけばよかったわね」
 その言葉に私は薄く笑った。そうして笑っていることに気がついて、今度は少し心が穏やかになった。もう彼女の死を聞いても動じない程にはなっているらしい。
「気にするな。それに赤城もあんたが今こうして生きているんなら報われただろう」
 この言葉に、何故だか鳳翔さんは少しばかり顔を曇らせた。
「ええ、そうであってほしいと思っているわ。……それで、木曾。わかったでしょう? 貴方が沈めば翌年に新たに深海棲鬼が増えるだけだと。そして、無茶を続ける作戦は要らない命まで費やすと」
「ああ、分かった。肝に命じる。それで、続きを聞きたいんだが」
 大量の艦娘と、赤城を犠牲にした作戦はどうなったのか。
「続き……漸減作戦及び反抗戦は、失敗したわ。沈められた戦力のほうが大きかった」
 四肢からすぅっと力が抜ける。けれど心臓は早鐘を打った。
「九割、九割よ」
「え……」
 なんの事かは容易に推察できた。だが、口にすることは憚られた。
「漸減作戦開始時から、反抗戦終了までに、あの港にいた九割の艦娘が沈んだわ」
 九割。五十艦が在籍していたとすれば四十五艦の損失。酷い、あまりにも酷すぎる。悔しさを感じると共に一つの疑問が浮かぶ。
「あの港?」
「ええ。先の話はこの鎮守府の話ではないわ。伊隅鎮守府よ。私と響ちゃん等は元々伊隅鎮守府付属だったわ。響ちゃんや一部の艦娘は反抗戦終了後、残存戦力の再編成の過程でここに来たの」
「それで、その作戦を指揮した提督は
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