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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
追憶  〜 帝国歴487年(三) 〜
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……」
唇を噛み締めている。不満か?

「おかしな話ではあるまい。既に軍の統制を乱した事に付いては一階級降級、一年間俸給の減給、一ヶ月の停職処分にした。処分を下した以上、後は前回の戦いで上げた功績を評価せねばならん。少将の力無くしては勝てなかったのだからな」
「……」
「ヴァレンシュタイン少将の功を認めぬとなればあの戦場で戦った将兵達が納得するまい」

分かったか? 卿は奮戦したかもしれん、しかし卿の力で勝ったのではないという事を忘れるな。勝てたのはヴァレンシュタインの手配りによるものだ。ローエングラム伯が唇を噛み締めている。屈辱であろう、ヴァレンシュタインの力量を認められない、いや違うな、認めても受け入れられないといったところか。これでは協力など無理だな。

「それに彼には国内を抑えて貰わなければならん。卿とて外征中に国内で騒乱など起こって欲しくは有るまい。ミュッケンベルガー元帥がアスターテで勝ちながらも兵を退かざるを得なかった時には卿もその場に居た筈だ、違うかな?」
「はい」
ローエングラム伯、ミュッケンベルガー元帥が頷いた。前者は渋々、後者は大きく。

本来ならローエングラム伯自身が国内の抑えを誰に任せるのかと尋ねなければならない筈だ。だがそれが無い。宇宙艦隊司令長官になった事を喜ぶ前にその事を考えて欲しいものだ。或いはヴァレンシュタインを副司令長官にする事でその事に気付くべきだろう……。どうも物足りない。

ミュッケンベルガー元帥とローエングラム伯が引き継ぎの事を話し出した。辞令交付は二月一日だがその前に済ませておく事で合意した。
「忙しいところ、御苦労だった、ローエングラム伯。人事の件は内密にしてくれ。ヴァレンシュタイン少将は謹慎中なのでな」
「少将は知らないのですか?」
「知らぬ。謹慎が明けてから話す事になる」

ローエングラム伯が部屋を出ていくとミュッケンベルガー元帥が苦笑を浮かべた。
「面白くなさそうだ、信用されていないと思ったのだろう」
「信用するわけが無かろう」
私が吐き捨てるとミュッケンベルガー元帥が今度は声を上げて笑った。

「いや、そうではない、能力についてだ。低く評価されたと思ったようだな」
「なるほど、そちらか。不信任について分かっておらぬようだ。余程自分に自信が有るらしい」
「そのようだ」
二人で顔を見合わせて苦笑した。才能を畏れられたのではなく危ぶまれた、不安視されたと思ったか。確かに屈辱だろう。畏れられたと思えば少しは違っただろうか。

「しかし現実問題として一人で宇宙艦隊を纏められるのかな」
「さて、少々難しいかもしれん」
「やれやれだな」
私の言葉にミュッケンベルガー元帥が頷いた。当分攻勢をとるのは難しいだろう。それとも無理に出撃するだろうか……。


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