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山を越えて
5部分:第五章
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第五章

 そうしてだった。マックローンは大きく右に操縦桿を動かした。そうするとだ。
 機体はそのまま大きく右に動く。しかし。
 その動きを見てガンナーは言った。
「鈍いな」
「四トンだからな」
 マックローンはやはりそこに理由があるというのだ。
「それは重いだろうな」
「それでもいけるんだな」
「ああ、いける」
 しかしそれはというのだった。
「だから安心しろ」
「わかった」
 彼のその言葉に今度も頷くオーウェルだった。そしてその動きを見守る。
 山が至近まで来た。今にも触れそうだ。
 翼の左端が今にも触れそうになる。しかしだった。
 紙一重であった。今は触れなかった。しかしである。
 右にも山が出て来てだ。山と山の間に入った。
 何とか通れるかどうかだった。しかしそれでもマックローンは冷静だった。
「いくぞ」
「いくんだな」
「いいんだな」
「多分ここがクライマックスだぜ」
 にやりともせずに出した言葉だ。
「ここがな」
「この谷を越えるかどうかなんだな」
「つまりは」
「ああ、超えるっていうかな」
 言葉が訂正された。それだけの冷静さはマックローンにはまだあった。
「通り抜けるだな」
「通り抜けるか」
「言っておくけれどはじめてだからな」
 マックローンのその顔には緊張が宿っていた。
「こういう場所を通り抜けるのはな」
「そうだよな、それは俺もだ」
「こういうのはか」
 ガンナーも言いオーウェルも緊張の極みにある顔で述べた。
「はじめてなんだな」
「正直訓練でもなかった」
 まさにそうだというのだ。
「まあやってみる」
「頼んだぜ、おい」
「こうなったらな」
 二人はここで彼に対して言うのだった。
「命は預けたからな」
「御前にな」
「じゃあドイツで美味いビールとソーセージ奢ってくれよ」
「それでいいんならな」
「好きなだけ飲んで食え」
 これが二人の返答だった。二人も今は腹を括っていた。とにかく今は生きなくてはならない、そしてその生きるということを彼に預けたのだ。
 三人、とりわけマックローンが緊張の極みにある中でだ。その谷に入る。まさにC−47が一機何とか通り抜けられる広さであった。
 そこを通る。左右の翼にそれぞれ山が当たろうとする。こすれる音が聞こえそうだった。
「触れてるか?」
「いや、大丈夫だ」
 不安な声を出すオーウェルにガンナーが答える。
「触れてもいない」
「そうか」
「ただ、危ないことは危ないな」
 それでもこのことは否定できなかった。
「いいか、本当に気をつけろよ」
「わかってるさ」
「それはな」
 こう言い合ってそのうえでだ。谷を通っていく。そのC−47が一機何とか通り抜けられる広さがそのまま続く。その
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