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Bistro sin〜秘密の食堂へいらっしゃいませ〜
非情な常連.2

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 「私にいい考えがありますよ。」
平泉はいつものように、ニコリと笑って続けた。
「太田くん、ビーフシチューはもう諦めましょう。」
「それで納得してもらえるとは思いませんけど?」
「はい。ですが、あくまで温かい料理をご所望でしたので。」
「で、でも!食材は限らてますよ!今更、別の物を用意するなんて…」
太田がそう言ったところに、平泉はこう言い放った。

「『肉じゃが』これを作りましょう。」

皆が騒然としている中続けた。
「肉じゃがは元々、海軍大将の東郷 平八郎が留学先で食べたビーフシチューを気に入って、日本で作らせたものだと言われています。ですが、その当時はドミグラスソースやワインは手に入りづらく、代用できるもので作って出来上がったのが肉じゃが。厨房に、それを作るだけの調味料はあります。ですから、今日は肉じゃがを作りましょう。」

平泉の指示通り、太田は肉じゃがを作り始めた。

 そして、その時が来た。
カランカランと音を立て、扉から入ってきたのは一人の女性。
既に準備が整った席に着くと、女性はチラッと目配りをした。
どうやら、この人が常連の客らしい。早速賢太郎が、女性の元へと料理を運ぶ。
机の上に出された肉じゃがに、女性は顔色を変えずに言った。
「これは?」
平泉が寄ってきて「温かい料理をご所望でしたので、本日は肉じゃがをご用意させていただきました。」
と、さも狙っていたかのように話した。

女性は、肉じゃがを一口か二口食べた後一言。
「マズイ。」
賢太郎は、自分のせいだ…
と自責の念に駆られていた。
女性は肉じゃがを食べ終えると、作った人間を呼べと賢太郎に言った。
厨房から太田が現れる。
女性は太田に言った。
「よくまぁこんな物が出せたわね?こともあろうに肉じゃが?この私に?恥を知りなさい。」
賢太郎の自責の念は耐え切れなくなり、女性の元へと駆け寄った。
「ち、違うんです。これは、私のせいで…」
すると太田は「賢太郎くん!」と言うと、首を横に振った。
「よくこれでビストロなんて名乗れたもんよ。ビストロの風上にも置けないわね。」
賢太郎は、少し腹を立てた。いくら何でも言い過ぎだ。そう思った。
しかし、賢太郎が口を開く前に平泉がやってきた。
「お客様、大変失礼致しました。ですが、本日もお口にあったようで何よりです。ご完食、大変嬉しく思います。」
平泉がそう言うと、女性が言った。
「来週よ。次に来るまでに、また『温かい』料理を用意しておいて。それと、ウェイターのしつけもね。」
そう言うと、女性は会計を済ませ足早に帰って行った。

経験の差。賢太郎は、それを改めて感じた。
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