暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
SAO
〜絶望と悲哀の小夜曲〜
私の弟
[4/4]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
戻らないと、ね…………」

「……そう、だよね………」

本当は、連れて行って、と言いたかった。

しかし、言えなかった。

レンのレベルは聞いたところによると89、自分のレベルは45。その差44──。残酷なまでに明確な、二人を隔てる距離だ。

レンの戦場に付いて行っても、シリカなど一瞬でモンスターに殺されてしまうだろう。

「……あ………あたし…………」

シリカはそこでぎゅっと唇を噛み、溢れようとする気持ちを必死に押し留めた。それは二つの涙へと形を変え、ぽろりと頬にこぼれた。

その涙をふわりとすくい取る、幼い手があった。

思わず顔を上げたシリカの目と、思いの外接近していたレンの目が合った。

少年の吸い込まれそうな闇色の瞳は、しかし穏やかで、ほっとするような暖かさがあった。

「なんで泣くの?シリカねーちゃん。一緒に戦えないだけで、会えないわけじゃないんだから」

「………………え…………?」

「レベルってゆーのは、ただの数字だよ。この世界での強さは単なる幻想。僕がそのことに気付いた時には、すでに遅すぎたけどね」

一瞬、レンが浮かべた自嘲めいた哀しい笑みの真意をシリカが測りかねていると、レンは穏やかな笑みを浮かべた。

「……だから、僕とシリカねーちゃんが友達ってゆーことは、変わらない、でしょ?」

「うん……うん!」

相変わらずのレンの笑顔を見て、シリカはようやく心からの笑顔を浮かべることができた。

「さてと、そんじゃピナを生き返らせなきゃね」

「うん!」

頷き、シリカは右手を振ってメインウィンドウを呼び出した。

アイテム欄をスクロールし、《ピナの心》を実体化させる。

ウィンドウ表面に浮かび上がった水色の羽根をティーテーブルに横たえると、次に《プネウマの花》も呼び出す。

真珠色に光る花を手に取り、ウィンドウを消すと、傍らに立つレンが言った。

「その花の中に溜まってる雫を、羽根に振りかけるんだよ。それでピナは生き返る」

「解った………」

水色の長い羽根を見つめながら、シリカは心の中で囁きかけた。

ピナ……いっぱい、いっぱいお話ししてあげるからね。今日のすごい冒険の話を……ピナを助けてくれた、あたしのたった一日だけの弟の話を。

両眼に涙を浮かべながら、シリカは右手の花をそっと羽根に向かって傾けた。
[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ