暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
~恋慕と慈愛の声楽曲~
Bitter Day
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あの現象はそう言うのですね」

得心したように頷く巫女は、しかし肝心な真実をご存じないらしい。

ALOサーバーの中に存在している数限りない種類のチョコレート。その中でGMじきじきに最高ランクのタグを貼られたのが、バレンタイン期間内限定地形イベントである《油田チョコレート》だ。

実に一時間のうちわずか五分。ALOワールドマップ内のどこかにランダムで沸き立つチョコレートの噴水を見つけることは完全に運任せ。さらに欲張りすぎるとMobを呼び寄せるという、食材アイテムにあるまじきバッドステータスを持っているのだ。その代わり、調理すれば各種支援(バフ)が付与されるという信じられないような効果がくっついている。

期間限定ということも吟味すれば、S級というのもおこがましいほどのレア度を誇るだろう。

そんな事実を踏まえれば、途端に眼前の焦げ茶色の液体が何か触れがたいオーラを発しているような気がしてくるのだが、カグラはまったく意に返さずに視線を投げかけてきた。

「次はどうすれば?」

「へ?あ、あぁ。えーと、め、メレンゲ作りですかね」

「なるほど、委細承知しました」

事前にメレンゲくらいのパティシエ知識は頭に叩き込んでいたのか、再び卵を手に取るその手つきに迷いはない。

真面目だなぁ、という思いが去来する。

卵黄を上手く分けることができなくてオロオロするカグラの手を取って導きながら、不思議な感慨がアスナを包み込んでいた。

SAOで、我ながら大人気なくどこかの誰かさんの胃袋を掴むために、必死に料理スキルを上げ、研鑽させていたあの頃の自分に、眼前の女性は完全に重なっていた。懐かしいといえば懐かしいし、昔の自分自身を見直しているようでこっ恥ずかしいといわれればそうなのかもしれない。

だから――――だからなのだろうか。

他人事には思えずに、放っておけなかったからこそ。

その言葉は、ポロッと零れ落ちた。

「ねぇ……、カグラさん」

「……はい?何でしょ――――」

「レン君のこと、好きですか?」
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