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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十六話 朱に染まる泉川(下)
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皇紀五百六十八年 七月二十五日 午後第七刻 史沢市 近辺
近衛総軍後衛戦闘隊 隊長 新城直衛少佐


 〈帝国〉軍はおおむね現状、三手に分かれている、一つは第一軍団として東方辺境領軍所属部隊が属している、彼らは第5騎兵師団による掃討、及び警戒網を構築し、龍口湾の戦いでおった傷を癒している。
 もう第二には健脚の兵を集めた精鋭部隊、第24強襲銃兵師団を主力とする快速の軍団である、この部隊は既に龍岡を越え、内王道から蔵原へ逃れようとしている集成第三軍の後衛戦闘隊と接触している。
 そして第三にして現在、両軍の焦点となっているのが第9銃兵師団〈マクシノス・ゴーラント〉を中核とし、これにあれこれと砲工兵部隊をつけくわえた軍団である、これはアラノック中将自らが指揮にあたっており、後備部隊と合流して龍州が州都・泉川に立てこもる龍州軍を包囲している。
「――そして、本日、龍兵部隊による爆撃を受けたことで重砲隊が壊滅、このため龍州軍は泉川を放棄し虎城に合流することを決定しました。で、手近なところで史沢から渡河点防衛に移る予定だった我々が御指名を受けたわけです」
 既に恒陽は地平に沈み闇の帳が下りている中、二人の近衛将校が細巻をふかしながら話している。
「なんだってんだ、そりゃ、こっちが怠けているとでも思ってるのか連中は」
 例によって例のごとく悪態をつく首席幕僚に益山は苦笑を浮かべた。
「なにはともあれ、大隊長殿――あぁいえ後衛戦闘隊長殿は夜間行軍に戦闘と来ましたからね、私らが次に眠れるのは明日の夜か、下手すりゃ明後日の夜ですな」

「畜生め、これだから将校というものは!」

「好き好んでそういう稼業を始めたんだ、今さらだろう」
 美女と剣牙虎を引き連れた大隊長が二人の会話に割って入った。

「猪口曹長が戻ったら行軍を再開する、君たちも商売に戻る頃合いだ」

「兵隊は歩くことが商売、でしたな。五千にもならぬ兵たちを率いて十倍の敵のところへいくのですから、なんとも楽しくてたまらん商売ですな」

 野犬と剣牙虎の戯れ合いに益山はため息をついた。
「無論、そのすべてを相手取るわけでもないでしょう?一撃で敵を削ったら後退しないと剣虎兵といえども実際無理ですよ」

「場合によるがな、確実に言えることは相手が理解する前に逃げるだけだ。あぁ無論、龍州軍に逃げ道を与えてからだが、兵共にとってはいい迷惑だろうが命令が下った以上はそうなる」

 藤森は苦々しいという言葉すら甘く見える顔つきで首肯する。
「えぇ、えぇそんなところでしょうが、東沿道に通ずる大橋を利用するとしても龍州軍の連中がどうにか体裁を整えるまで時間を稼がねばならんでしょう、一戦交えますか?」

「そうなるだろう、〈帝国〉軍相手に楽観的な見通しが叶うなどと思わないことだ
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