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ソードアート・オンライン リング・オブ・ハート
27:ビューティフル・ライフ
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ないだろう。人体医学に精通するが故の、これは確信だよ。だが……頭の中では分かっていても、なかなかどうして私には、どこか諦め切れないところがあるようだね」

 ハーラインは手を降ろし、縫い目のある布切れを再び摘み上げて掲げた。

「これはね、執刀医もよくやっている指の鍛錬の一種なのだよ。指先の微細な動きを維持する為に、私も現実では暇さえあればいつもしていたのだが……今でもそうだ。笑えることに、この作業だけで裁縫スキルがあと一息でカンストを迎えてしまうよ。……やれやれ、現実に戻ったら、このスキル値を元の肉体に還元してくれないものかね?」

 再び自嘲的な笑いをあげる。だが……

 ――ふと、その笑みが自然なものに変わった。

 その端正な顔立ちに似合う彼の微笑を、俺は初めて見た。

「……だが、私は後悔はしていない。なぜなら……私はこの世界に、医学の夢以外の楽しみを教えられたからだ」

 焚き火を眺めていた目を、石畳に、森に、夜空へと泳がせる。それはやがて、己の傍らに立てかけてあるパルチザンへと落ち着いた。

「店の経営、戦いに冒険、赤の他人への会話すら……私にとってはとても、とても新鮮なものだった。中でも取り分け私を感動してのけたのが、武器を美しく装飾する仕事と――」

 その目を今度は、寝袋に収まり眠るアスナ達へと滑らせた。

「――美しく、可憐な女性達との会話だった」

 ここで俺はがくっと肩を滑らせてしまった。

「お、お前な……」

 少し感動しかけていたのに、ズッコケてしまった俺がジト目を送ると、おかしそうに笑う。

「ふふふっ……だけど、本当のことなのだよ? ……私はね、実は小学生の頃から、ハッキリ言って女性にとてもモテた」

 突然の自慢に、俺はジト目をイラつきを込めたそれに変えた。しかし彼はそれに気付いた様子は無い。心の中で舌打ちをしておく。

「だが当時の私にとって、それらは勉学を邪魔する、煩わしい以外のなにものでもなかった……。――だから、知らなかったのだ。人と話し、からかい、からかわれて談笑を交わす楽しみすらね……」

「…………!」

 俺の驚きを他所に、ハーラインは自然な笑みを保ったまま、独白を続ける。

「私は長らく忘れていたよ。医学は人を救い、笑顔を守る為にあるということを。なのに……私は人々の差し伸べる手を払い退け、遊ぶ時間など目もくれず、ひたすら机にかじりついて己を犠牲にし続けてきた……。本末転倒もいいところだよ。私は……人々の喜びを守る事とは何たるか、なにも分かっていなかった。昔は私も……人々を喜ばせたい、という漠然としつつも純粋な夢を胸に抱いたからこそ、医者を目指し始めた一人だったのだがね……」


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 その言葉
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