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一言も漏らさずに
第一章
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ありながらもソ連のそうした行いは実によく耳に入っていたのである。それもかなりの割合で。
「あれは人の行いではない」
「悪鬼だ」
 ソ連軍を忌々しげにこう断定する者までいた。
「あの連中は邪悪だ」
「野蛮どころではない」
「しかし今では『平和勢力』だ」
 誰かが実に忌々しげにソ連をこう呼んでみせたのだった。
「何でも学者連中に言うとソ連は平和勢力らしい」
「平和だと!?」
「あの連中がか」
「何でも共産主義は平和をもたらすそうだ」
 二十世紀に広まった迷信である。なおこの迷信に最も毒されていたのが我が国のマスコミであり知識人であった。実に嘆かわしいことにだ。
「何でもな」
「そんな筈があるか」
「嘘だ、それは」
 彼等はその迷信を即座に否定した。彼等はソ連という国家をよく知っていた。

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