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Lirica(リリカ)
王の荒野の王国――木相におけるセルセト―― 
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 1.

 光が一つ弾け、無我の闇が破れた。目覚めつつある自我が、男の声を認識した。
「死者ニブレットよ、我に従え」
 こうしてセルセト国第二王女ニブレットは、果てなき死の闇から現世に引き戻された。
 目に入る空には厚い雪雲が敷き詰められていた。点々と群れを成して浮く影は、魔術師たちが操る木巧魚(きこうぎょ)で、薄暗い静寂の下、哨戒を続けているのだ。
 覆いかぶさるように、魔術師の姿が視界に入った。黒い法衣で身を包み、顔はヴェールで隠している。見えるのは顎と口だけだ。
「サルディーヤか」
 ニブレットの言葉に、魔術師の口から癇に障る笑みが消えた。
「わかるぞ、貴様の名が」
 ニブレットは仰向けに寝かされた姿勢から、手をつき、起き上がった。石床に直接寝かされていたのだが、寒いとも、冷たいとも感じなかった。自分がいる場所を観察する。屋根と壁の一面が跡形もなく消し飛ばされた建物だった。
「わかる」
 ニブレットはなおも呟いた。
「貴様の腐術は私に対して不完全なようだな」
 魔術師サルディーヤが忌々しげに舌打ちをした。ニブレットは腐術の実行者の指示もなしに、自ら歩き、崩れた床の縁に立った。
 見下ろすセルセトの都の通りは深い雪に覆われていた。木巧魚たちが戦いの炎を放った痕跡が、雪に混じる煤から見て取れた。雪の中には、兵士達によって見せしめに破壊されたネメスの木兵(もくへい)達の残骸が散乱していた。目を凝らせば、木兵を操る蜂たちの、体を丸めた死骸も見える。
 しかし、自分を殺したのはどうやら木兵でも蜂でもないようだと、ニブレットは思った。ちぎれた手首を縫合する糸が、その思いを裏付けた。指で体をなぞった。喉や、肩や、膝も、同じように縫合されていた。

 ※

 一日と数時間前、ニブレットは都を見下ろす野営地で浅い眠りに就いていた。眠りの夢の中に、赤い光が三度瞬いた。木巧魚たちの報せだ。緊急の軍議が開催される。ニブレットは起き上がった。侍女オリアナが、一糸纏わぬ姿で同衾(どうきん)していた。ニブレットは燃えるように赤い髪をかき上げ、オリアナに毛布を掛け直してやると、服を着て、マントを羽織り、音も立てずにテントを出た。
 司令のテントには、既に将校たちが集まっていた。どうやら皆、自分を待っていたらしい。ニブレットは二人の魔術師、サルディーヤとベーゼの間に立った。
「時間がない。本題に入る」
 連隊長カチェンが低い声で告げた。
「都の包囲戦の芳しくない戦況は皆の知っての通りだ。都の西の森に展開するタイタス国イグニスの火焔兵団の数八千、南の丘陵に展開するネメスの木兵隊が一万五千、王の荒野に至る東の平原では七千五百の魔術木巧兵団が操る巨人機兵どもが展開し」
 ニブレットはうんざりして溜め息を漏らした。
「北の黒の山脈の麓には、巨
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