R.O.M -数字喰い虫- 3/4
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「貴方を苦しめている『数字喰い虫』は、実体であって、幻でもある」
凛とした透き通る声が耳を擽る。
少女――メリーの声は、どこか信託のような神聖な響きがあった。
閉塞し、虫によって閉ざされた世界に舞い降りた希望。少なくとも美咲はそう思った。
だからこそ、その言葉に食い入るように耳を傾ける。
「貴方が見たノートは、幻でも非現実的な存在でもなく確かに存在する技術的なもの。あれは、純粋に見た者の精神構造や脳内記号を視覚を通して書き換える効果を持った科学的な文様。貴方が見ている芋虫も、撒き散らされる極彩色の体液も、全ては貴方の認識する事実が書き換えられているから」
無言で頷く。自分でも驚くほどに従順だった。
見るだけで精神に変調をきたすなど常識では考えられない。でも、そもそも今置かれている状況が常識的ではないのだから、信じてもおかしくはないのかもしれない。
「でも、それなら芋虫は存在しない、ってことだよね。なら、幻であっても実態は伴わないんじゃ……わたしはずっと存在しない物に……」
「科学的に実体があるかどうかという分析に意味はないわ。科学は科学、精神は精神でしかない。世界を認識するのが精神ならば、精神が『それがある』と思えばそれはある。ただ、それが周囲に認識できていないというだけ。だから、貴方の『いつか虫に喰われるかもしれない』というイメージがあれば、その芋虫は現実を喰らって膨張し、貴方を喰らう。それは貴方にとっての事実たりうる」
「私の心が死ぬから、現実で死んでいるかどうかは認識できない?」
「現実という認識に意味がない、と言っている。何故なら、貴方の見る世界も周囲の見る世界も、完璧な世界にはなりえないのだから。どちらが虚偽でどちらが真実という認識を受け入れられないのなら、貴方の言う論理づけでも構わない。それも真実ではないけど、虚偽ともなりきれないから」
数字を喰らう芋虫たちの存在を認識したうえで言葉を紡ぐ目の前の少女に、美咲は懇願した。
「なら……芋虫を虚偽にすることは出来ないの?わたし……わたし、もうこんな世界に耐えられない。芋虫に塗れて、いつ自分が芋虫に溺れるとも知れないこんな世界を、変える事は出来ないの?忘れ去ることは出来ないの!?」
誰が、何のために私をこんな目にあわせたのかは分からない。これが神罰だというのなら神に問い、悪魔の計略だというのならその悪魔にも問いたい。私はどうあれば解放されるのかを。それさえ叶うならば、今はもう他に何もいらない。
命を懸けてでも求めている恐怖からの解放を実行する術を、美咲はメリーに求めた。
そして、メリーは答えを持っていた。
「貴方の認識の全てを書き換えたその世界を変えるには、簡単な方法があるわ」
「本当!?お願い……お願いします
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