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異々、心葉帖。ことこと、こころばちょう。〜クコ皇国の茶師〜
プロローグ
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[1] 最後
 
 
 食べ物がしゃべるはずない。

 『そと』から来た人は大抵口を揃えて、そう笑う。
 初めて店に来た人間に、蒼《あお》が「あのね!いいこと教えてあげる!」と瞳をとろけさせて、とっておきのお話もしくは両親自慢をするたび、大方の大人に同じ顔を並べて見せてくる。
 茶葉店を経営する両親のお店には、色んな国の色んな人がやってくるけれど、ほとんどの人間は、蒼に同じような顔で笑って見せるのだ。
 大人ってどうしてそんな風に自分の瞳中の映像で『ない』と鼻で笑うのだろう。
 大好きな父にその疑問をぶつけた時には、

「蒼、言葉というのは不思議でね。言葉じゃないと伝わらないこともあれば、言葉では表現しきれないこともあるのだよ?」

 困ったように微笑まれてしまった。
 よくわかんないの。だって、言葉で伝えても目で見ても、物事の真ん中にあることは同じなのに。それは6歳になったばかりの小さな女の子の蒼でもわかることだ。なのにどうして、もっともっと色んな世界を知っている大人に伝わらないのだろうと、唇を尖らせた。
 といっても、実際のところ蒼自身も直接茶葉たちが『話す』ところを見たことはなく、両親から聞いただけだったので強く反論も出来なかった。
 でも、まぁ。確かに、目の前の人参や葱に「食べてもらえて嬉しい!」とおはしでぶっすりと刺した瞬間、笑い声をあげてもらっても、蒼だって「はい、そうですね。おいしく頂きます」と頬張ることなんて出来ないわけで。
 でもでも、わたしはしゃべるって思ったんだもん。
 なんて、淡藤色の長い髪を揺らしながら、頬をほおずきのように膨らませたのは一週間前のこと。


 そんな、思い出というには近い記憶を思い浮かべている最中、風に髪を撫でられ顔を上げれば、満天の星空が広がっている。いつもは部屋の中から見ている光景を風を感じながら見上げていることに、蒼の鼓動が全身をふるわせた。
 今、蒼は店の裏側にある家の、さらに奥へと向かっていた。とても広い庭にある、水晶の道。
 庭の中を駆け巡っている、川と言っても良いほどの水の流れ。それが水晶の板でふさがれ道となっているのだ。その水晶が、空の星と月を吸い込み、透明な身に光をうつして天の川を作っていた。
 蒼はその上を、そろりそろりと歩く。星の金平糖と月の穴を踏んで歩いていると、水晶の下を流れる水が、水晶板の所々にある穴から流れ込む風で、波を打つ。
 水晶の道に映った星を踏んでいた蒼は、風で揺れたそれに慌ててしまう。危うく転びかけた蒼は、早くなる胸を押さえ、深呼吸をする。再び見上げた先には昼間の太陽と同じ形の月が浮かんでいる。けれど、太陽とは違って、どこか優しいと感じる光は、不思議と蒼の心を落ち着かせてくれた。
 夜の空で淡く光っている月は、闇の中に出来た穴にも見えた。で
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