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東方虚空伝
第三章   [ 花 鳥 風 月 ]
五十二話 緋色の宵 中編
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し離れた場所で僕に斬られた首筋を抑えながら殺気の籠った視線を向けている鬼へと向き直る。




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 虚空が半身になって刀を構え視線を向ける先――――五m程の距離を取っている百鬼丸は虚空に斬られた首筋を抑えながら憤怒の表情を浮かべていたが、虚空の顔を確認した途端高笑いを始める。

「ハーハハハハハハァッ!!まさかこんな所で会うなんて奇遇だな!エェッ七枷虚空ッ!」

 先ほどとは打って変わり喜悦の表情で叫ぶ百鬼丸の言葉に、茫然としていた輝夜が反応する。

「…………七枷……虚……空…………嘘……本当……に?本物?生きてる?」

 状況に付いていけていない輝夜は自問自答なのか質問なのか分からない呟きを漏らし、

「混乱するだろうけど本物だったりするんだよね。その話は後にしようか、とりあえず――――」

 虚空は視線を動かさないまま輝夜にそう声をかけ、続けて目の前の存在に疑問をぶつけた。

「――――教えてほしいんだけど…………君――――誰?」

 虚空の口からその言葉が出た瞬間――――その場は静寂に包まれ、遠くから聞こえてくる人妖の叫び声と炎の熱で材木が爆ぜる音だけが響き渡る。
 喜悦の表情を浮かべていた百鬼丸は再び憤怒の顔を出し、噴火寸前と錯覚させる程の――――怒りを抑え込んだ声で、

「ッ!?……テメー……この俺を覚えていないってーのか!この百鬼丸様をよ!」

 周囲で燃え盛る炎にも負けないほどの激しい怒りを込めた眼光で虚空を射抜きながら、百鬼丸はそう叫んだ。

「……これはこれは――――なるほど君が百鬼丸……ハハッ何の因果なのかな〜こんな場所で今回の騒動の主犯格に会うなんてね。――――それから僕は君の事を覚えていない、と言うか知らないよ。自慢じゃないけど記憶力は人並みだからどうでもいい事は忘れやすいんだ」

 虚空の言葉は相手を挑発している様に聞こえるが事実なのだ。数億にも及ぶ人生を歩んで来た虚空だが自身が言った通り記憶力は人並み、故に基本的に興味の薄い事柄は速攻で忘れるようになってしまっている。
 虚空の言葉を事実と受け止めたのか、はたまた挑発と受け止めたのかは分からないが百鬼丸は怒りで震えながら口を開く。

「……五十年前の熊襲との戦でテメーと須佐之男が倒した伊予阿波二名(いよあわふたな)(今の四国)の茨木 轍扇(いばらき てっせん)を覚えているか?」

「…………覚えてるよ、苦労したからね」

 五十年前に熊襲と組んだ妖怪集団の長にして鬼の茨木轍扇。
 『鋼と化す程度の能力』を持ち最後はたった一人で虚空と須佐之男を相手取ったのだ。実力もさる事ながら人格者でもあり虚空と須佐之男に
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