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蜻蛉が鷹に
第四章

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第四章

「じゃあ俺はそれに入るな」
「入るか」
「やっぱりそうするんだな」
「そうする。待っていた」
 言葉が強い。その言葉は決意そのものだった。
 彼は実際に警察予備隊に入った。無論元予科練であることを言ってだ。すると彼はだ。入隊してすぐにこう言われたのであった。
「パイロットですか」
「そうだ、いいな」
「空の方でいいな」
「そちらで」
「はい」
 パイロットと言われてだ。満足した顔で頷いた。
「それになりたくて来ましたから」
「そうか、それならな」
「頼んだぞ」
「ええ。ただ」
 ここでだ。彼は寂しそうに言うのだった。
「アメリカは敵じゃないんですね」
「味方だよ」
「今度はな」
 彼等もまたかつて軍の人間だった。だからその言葉には微妙なものがあった。あの激しい戦いのことは忘れられなかった。
「だから戦うことはない」
「今はな」
「それは考えていませんでした」
 浜尾はこのことは残念に思っていた。
「俺、いえ私はです」
「気持ちはわかるがな」
「だがそれでもだ」
「君のその腕は必要だ」
「日本にとってな」
「わかりました」
 祖国の名前を出されるとだった。彼も頷くしかなかった。
 そうしてだった。彼はまた空を飛ぶことになったのだった。 
 警察予備隊はすぐに保安隊になり自衛隊になった。浜尾は航空自衛隊のパイロットになった。階級はすぐに一等空尉になったのだった。
「つまりこれは」
「そうだ、大尉だ」
「昔で言えばな」
「将校だ」
 それだとだ。乗艦達が彼に話す。彼も上官達も青いスーツの軍服である。かつての予科練の七つボタンでも海軍の詰襟でもなかった。
「今は幹部だがな」
「その呼び方だがな」
「私が将校ですか」
 浜尾はあえて将校と呼んだ。
「兵学校も出ていないのにすぐに」
「アメリカじゃパイロットは将校だからな」
「それでだよ」
「アメリカ、ではですか」
 浜尾はアメリカと聞いてだ。また微妙な顔になった。
「ここは日本なのにですね」
「自衛隊はアメリカ軍をモデルにしているからな」
「それは仕方が無い」
「そういうことだよ」
「そのアメリカの、ですね」
 アメリカへの敵愾心は消えてはいなかった。それはあの時のままだった。
 しかしそれは何とか隠してだ。彼は今言うのだった。
「そういうことですか」
「そうだ。しかしだ」
「それでもだ」
「頼んだぞ」
「わかっています。それで機体もですね」
 彼が今乗っている機体はだ。それもまた。

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