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ある伯爵家子弟の評伝
序文

[2]次話
私はこれよりここにある一軍人、本来ならば私がこのようなものを書くまでもなく、人々によって多く語られるような生涯を送りながらも、実際にはこれまであまり語られることのなかった一提督の生涯を記そうと思う。

彼の生まれは特別変わっていたものではない。むしろ当時の世の中において、それは“平凡”とも称しうるものであった。国内に何千家と存在する貴族の中の一家に、嫡男として生まれた。父と親族より育てられ、勧められた道を勧められるままに歩んでいた。ただその途中で、とある出来事により彼は違う道を歩き始めた。偶然であろうと必然であろうと、彼が歩み始めた道はそれまでと全く違うものとなった。

彼はのちにこの出来事を“偶然とはいえ、起こったことを呪いたくなる出来事”と手記や友人との会話の中で述懐している。このことに関してはのちに記す。

彼の人生も、見方を変えてみれば平凡なものになるだろう。その可能性を秘めている。だが、その“視点”はかなり底意地の悪いもので、彼の人生を記すにあたっては不適格なものである。故に当然ながら、私はそれを極力排して彼の人生について述べていこうと思う。

思うに、彼の人生は平凡なように見えて、その中に異質なものがところどころにみられる。これといって特異的なものではないが、だからといって平凡でもない。私が幼き頃、彼の人生を初めて知り終えたときにはこのような、生意気に冷めた感想を抱いたものだった。

この軍人の生涯を記すに当たり、彼自身の手記と友人たちや彼の家族の回想録や現在開示されている公式資料に依った。今後、彼という人間とその生涯に関しての研究が進歩することを願い、これを記すものである。

読者の諸君が、彼の人生に触れていかなる思いを抱くかはわからない。だが、私にとってはその思いこそが、私の拙い試みの目的なのである。

宇宙歴一一三七年 スタイルズの自宅の書斎にて アルフォンソ・ルイス・チョムスキー


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