Memo1 ヴァイオレット・ハニー
「一緒にカナンの地にいきますっ」
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「海瀑幻魔の眼」を手に入れた日の夜、イリスは暮れ更けた夜のトリグラフの空を翔けていた。
ビズリーはイリスを駒にしたいのだから、イリスが駒に甘んじていればある程度の自由は許されている。
実体化すれば契約者のレイアからより多くのマナを奪うと分かってはいるが、空気に融けて消えているなどバケモノみたいなことはしたくないのだ。
イリスはあくまで自らを「人」として扱いたい。
この飛翔とて、有事のための訓練だ。レアバードも飛空艇もなしに空を翔ぶなど人の摂理に反していて気分が悪いが、いつどこでこれが役に立つか分からない。何であれ利用できるモノは利用する、がイリスの信条だ。
『……カナンの地に連れてってほしいの』
聞き知った声に、イリスはふわりと空中停止して、下を見やった。案の定エルと、ルドガーがいた。
『ああ――連れてくよ。絶対』
ルドガーの答えを受け取ったエルはとても華やかな笑顔を見せてから、小指を差し出した。
『ホントのホントの約束だよ。エルとルドガーは、一緒に「カナンの地」にいきますっ』
小さな指と大きな指の、契りの儀式。
『約束っ!』
笑みが零れる。どこまでも無垢で芯が強い少女だ。そして、それに応えるルドガーも、どこまで誠実なのやら。まったく似た者同士である。
イリスは宙に座っていたポーズを解き、二つの月に背を向けて公園に降りた。
ふわ。背後で何かが降りてくる気配がして、ルドガーはふり返った。
「イリス。いつから」
「ついさっき。聞くつもりはなかったのだけど、聞こえちゃったわ。ごめんなさいね」
「ワザとじゃないんだろ? ならいいよ」
イリスは指で、エルがいたブランコのチェーンをなぞった。エルは先に部屋に戻って、今はこの場にいない。
「エルを連れてってあげるの?」
「連れてくよ」
気負いもてらいもなく答えが口を突いた。少しの違和感はあったが、自分がエルとカナンの地に行くことは、運命のようにさえ感じていた。
「過酷な道のりになるわね」
その言葉は、当然イリスもルドガーの道行きに付いて行くと暗に告げていて、知らずルドガーは笑っていた。
「かもな。でもエルと――イリスは、俺が守るから」
「ありがとう。嬉しいわ、本当よ?」
微笑んでルドガーを見上げるイリスに、やはり、どうしてもルドガーは母・クラウディアを重ねてしまう。
だからといって、母に似ているから守るという代償行為でないのは、ルドガーが一番分かっている。
実母と似ていることを差し引いても、イリスは「お母さん」だから、イリ
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