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青い春を生きる君たちへ
第14話 下らない昔話
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、俺は電話中やけどな》
「良い身分だな。寮監にバレたりしねぇの?」
《寮監?ああ、上田か。あんなん1人しかおらんのやさけ見つかる方がアホやわ。今はもう、先輩もおらんさけ、自由きままに電話もできるで》


上田。そういう名前だったか、あのウルサイ寮監。小倉は懐かしくなった。ほんの数ヶ月前まで自分が居た場所なのに、不思議と、自分がそこに居た頃がずっと昔の事に思われた。そうか、もう先輩も居ないんだよな。コソコソ使ってたケータイも、今は堂々と使えるって訳だ。


「……今はもう、秋の大会終わっただろ?どうだ、ベンチ入れたか?」


何故か。本題とは全く違う事を尋ねてしまった。小倉は、自分の口から出た言葉に焦る。町田がベンチ入れたかどうかなんて、今の自分には関係のない事なのに。いつも一緒に練習していた仲間が、現状どんな立ち位置かなんて……


《おお、お陰さまでなぁ。ちょっとは公式戦にも出してもろたよ。チームも近畿の準決まで行ったさけ、普通にやっとりゃ来年の春は甲子園やで》
「そうか……そりゃ、良かった。おめでとう」


小倉は、ホッとしたような、嬉しいような、何とも言えない感慨に包まれた。そうか。町田が遂にメンバー入ったか。あいつ、足は遅いけど、グラブ捌きは上手くて長打もあるから、代打や守備固めでは重宝されるだろうな。甲子園か。すげえな。毎日500素振りしてた甲斐、あったってもんだな……そんな感慨は、町田の次の言葉、小倉が最も聞きたくなかった言葉によって打ち消された。


《俺ごときがベンチ入れたんやからなぁ……お前もおったら、絶対番号はもろてたやろに。もしかしたら、レギュラーやったかもしれんかったわ》


もし、お前が居れば。その一言は、小倉に思い出させるのに十分だった。甲洋の甲子園出場は、他人事などではないという事を。自分も本来なら、その一員として夢を叶えていたであろう、という事を。あれさえなければ、あの事さえなければ……


「……ッ……ーー」


一瞬にして、蘇ってくる。夢が終わった、あの二日間の出来事が。



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小倉はその日、初めてベンチの黒板にそれを書いた。「7時雨天」。いつから始まったかは定かではないが、甲洋野球部に伝わる、下級生にヤキを入れる恒例行事。それは、この名前で呼ばれていた。言葉を考えるに、雨天練習場が出来てから始まったのだろうから、実はそれほど長い伝統ではないはずだが、名前は違えど、これに類似した出来事はそれ以前にも山ほどあったのだろう。とにかく、下級生達の恐怖の象徴としてそれはあった。

屋内雨天練習場に、一年生達は整列していた。小倉はその列の正面に仁王立ちしていた。一年生の顔は
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