第三章
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「そして父君も」
「父上は既にわしは父上以上と言って下さるがな」
「実際にそうだとわしも思うが」
「いやいや、まだじゃ」
十兵衛は自分では笑ってこう言うのだった。
「わしはな」
「心眼を備えていないからか」
「そうじゃ、だからな」
それで、というのだ。
「わしはこのまま鍛錬を続ける」
「その眼帯を付けたままでじゃな」
「流石に眼がないと困る」
その左目を笑わせての言葉だ。
「盲目で生きておる者は大変じゃな」
「そうじゃな、流石に見えておらぬとな」
「片目でもな」
「伊達様も片目があるからこそじゃ」
「ああしてやっておられるな」
「そうじゃ、しかし御主はな」
十兵衛はというと。
「それでよいのじゃな」
「考えたがな」
「心眼を備える為にじゃな」
「わしの修行は剣を振るう時だけではない」
「常にじゃな」
「起きている時も寝ている時もじゃ」
まさに常にというのだ。
「修行だからのう」
「あえてそうしておるのじゃな」
「そうじゃ、そしてそれで和尚が来るのがわかったのなら」
玄関に来たその時点でだ。
「よいか」
「そうじゃな、ではな」
「うむ、このままやっていく」
「目を閉じても周りが見える様になれば」
その時こそだとだ、沢庵は十兵衛に告げた。
「開いた時ぞ」
「そういうことじゃな」
十兵衛は沢庵に確かな笑みで応えた、そのうえで稽古を続けた。そして遂にだった。沢庵と庭で話した半年後だ。
十兵衛は道場で稽古後に黙想をしていた時にだ、不意に。
周りが見えた、目を閉じている筈だというのに。
道場の中、後ろまで全て見えた。そして目を開いてこう言った。
「遂にじゃな」
笑ってはいない、だが会心の顔だった。そしてそのうえで次の日沢庵の寺まで赴きそのうえで彼に対してこのことを話した。
「昨日の黙想の時じゃが」
「ほう、遂にか」
「うむ、見えた」
こう沢庵に言うのだった。
「全てがな」
「後ろも見えたな」
「振り向いてもおらんのにな」
「それじゃ、それこそがじゃ」
「心眼なのじゃな」
「御主も遂に開いたな」
沢庵は笑みを浮かべ十兵衛に話すのだった。
「よいことじゃ」
「長い間の鍛錬が実ったな」
「そうじゃ、しかしな」
「しかしか」
「御主はずっとか」
ここでこうも言った沢庵だった。
「まだそのままでおるか」
「これか」
手を眼帯の上に添えてだ、十兵衛は沢庵に言葉を返した。
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