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旗袍
第五章

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「だからな」
「食べるのね」
「ああ、じゃあ行こうぜ」
 祭りのものを食べに、だ。
「これからな」
「わかったわ、じゃあお願いがあるけれど」
「お願い?」
「これ持って」
 こう言ってだ、民徳にあるものを差し出した。それはというと。
 一つの赤いリュックだった、そのリュックを強引に手渡されてからだ。民徳は芙蓉に目を顰めさせたうえで問い返した。
「何だよ、これ」
「何だよってリュックよ」
 あっさりとだ、芙蓉は答えた。
「見ればわかるじゃない」
「だから何でリュックなんだよ」
「そこに着替える前の服が入ってるのよ」
 着てきたそれがというのだ。
「それ持ってね」
「おい、何で俺が持つんだよ」
「この格好でリュックなんか持てる筈ないじゃない」
 芙蓉のあっさりとした調子は変わらない。
「だからよ」
「俺に持てっていうのかよ」
「そう、それにね」 
 芙蓉は兄にさらに言った。
「手は離さないでね」
「今度は手かよ」
 妹の差し出した手を見てだ、また言った民徳だった。
「何処まで図々しいんだよ」
「だってこの靴よ」
 今度は花盆底を見ての言葉だ。
「はじめて履いたし」
「ちょっとしたらこけるからか」
「そう、だからね」
 それで、というのだ。
「ちゃんと持っててね」
「全く、世話が焼ける奴だな」
「仕方ないじゃない、この格好だし」
「せめて次からは靴だけでも何とかしろよ」
「まあ今はね」
「今はかよ」
「そう、このお祭りの間はね」
 にこりと笑ってだ、兄に言った。その旗袍姿の笑顔の妹を見てだ。
 民徳は可愛さの中に奇麗さも入っていてしかも悪気がないことも見てだ。やれやれといった顔になってそのうえでだった。
 芙蓉にだ、こう答えたのだった。
「いいさ、今日だけだぞ」
「うん、それじゃあね」
「行こうな」 
 妹の手を取って言った、そのうえで兄妹で祭りに出た。旗袍姿の妹と共に。


旗袍   完


                     2014・12・30
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