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番外編〜命の数字〜

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1月1日、元旦───

雪羅と雫は初日の出を見るために海に来ていた。
海から吹く潮風が頬を掠め、身を震わせる。

「少し寒いね・・・」

「そうだな・・・」

雪羅が時計を確認すると午前5時30分、日のでまでまだ時間がある。
ここのまま待っても雫が寝てしまいそうなので雪羅は話を始めた。

「雫、こんな話を知ってるか?」

「ん?」

『あなたは“ある銀行”に口座を持っています。そこには《29200円》のお金が振り込まれており、そこから増えることは決してない。そしてそのお金を使うにはルールがある。
一つ、そのお金は自由に使って構わない。
二つ、振り込まれたお金はその日のうちに使い切らなければならない───』

雪羅の話を聞いて雫は首をかしげた。

「何の話?」

「この《29200》っていう数字には特別な意味が込められてるんだ」

「特別な、意味・・・?」

雪羅は頷いて今も静かに波をたてている海を見た。

「それは、《命のお金》なんだ」

「それって、どういう・・・?」

「人が生まれてから80歳まで生きたとしての日数を換算すると29200日になるんだ。それが《命の数字》・・・」

雪羅の言葉を雫は黙って聞いた。

「お金にして約三万、生活費としては心もとない規模だ。それはもちろん命でもな・・・。でも・・・」

雪羅は腰を上げて砂を払う。

「だからこそ、無駄にはできないのさ。既に俺たちは《6570円》という命を使ってる。これから無駄に《22630円》を使い切るか、それともきっちり使い切るか。この中に無駄にしていいお金があると思うか?」

「ううん、一円も無駄にはできないね・・・」

「そう、だから俺は残りの命を無駄にしないために、“生きるんだ”。死んだやつらの“生きられなかった時間と共に”・・・」

話を聞いた雫は雪羅の腕に自分の腕を絡めた。
その目は細められていた。

「やっぱり、雪羅は雪羅だね・・・」

「今さらだろ?」

「でも、一人で生きさせないよ。私も“一緒に生きるから”・・・」

雫は自分の身を雪羅に預ける。雪羅は雫の頭に優しく手を乗せる。

「・・・そうだな、生きよう。一緒に、“今という時間を”・・・」

日の出が登る。また、何気ない一日が始まる。
でも、その一日こそが人を前へと進めるのだ。

そしてそれが道となり、いつか───

何物にも変えがたい愛しいものへと変わるのだ───
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