暁 〜小説投稿サイト〜
イリス 〜罪火に朽ちる花と虹〜
Interview7 「お母さん」
「それが一番、救いがない」
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それは立派でも何でもないとルドガーは考える。

(死んでやり遂げたなんてとんだ欺瞞だ。生き物なら生きる努力は最後まですべきだ。けどそう考えちまうのは、きっと俺が、命より大事な、愛とか理想とかを持ったことがないからなんだろうな。自分以上に価値があるものを知らないから)

 こういう場面に遭遇すると、否応なくルドガー・ウィル・クルスニクの凡庸さを突きつけられる。

『ま、前置きはここまでにして、っと。せっかくクロノスが封印してくれてたってのに。よくもまあアレを解放してくれたなぁ? クルスニクの末裔』

 ふーやれやれ、とでもバックに出そうな風情でシャドウが肩を竦めた。

『アレは呪いの塊だ。存在は醜悪、呼吸は害悪、抱擁は凶悪、涙は罪悪。髪の毛一本、マナの一滴に至るまで生者を蝕まずにはいられない。アレ自身がどれだけオマエら人間を愛していようがお構いなしにな』
「俺にどうしろっていうんだ。言っとくけどな、もっかい封印しろって言われたって俺できないからな。俺、算譜法(ジンテクス)なんて使えねえんだから。できたってイリスをまた縛りつけるなんて俺はやらない。絶対に」
『蝕の精霊の過去を知ればアナタの心も変わると踏んだのですが』
「勉強になったんじゃないか? 心の精霊にも心変わりさせられない奴はいるって」
『オマエ、こっちが下手に出てやれば好き勝手……』
「うっせえ!!」

 凪いでいた闇がびりびりと波打った。

「人が大人しく黙って聞いてりゃ、こっちこそ『よくもまあ』だ。お前らの言うことが正しいのなんて百も承知だ。俺は去年の試験でイリスが精霊になって戦うのを見たんだ。イリスが毒だってのはイヤってほど知ってんだよ。だからって憎みきれるかよ! 俺にとっては恩人なんだよ!」

 ルドガーを地下の落盤から救うために分史に連れ込み、分史でも自分が勝手に危険地帯に連れてきてしまったからと独りでクロノスたちと戦った。
 マナを吐く物体になった人間にルドガーが情けなく錯乱した時、両腕の中で宥めてくれた。

 確かにイリスは過去の人たちに酷い仕打ちをした。でも、今ここにいるルドガーはイリスに何も酷いことはされていない。

『――アナタの「心」はよく分かりました。アナタの「心」は間違いなく蝕の精霊の救いとなるでしょう。ですが覚えておいてください』

 意識が傾いだ。眠気を堪えて起きていて、知らずがくんと眠りに落ちていくのに似ている。

『アナタが恩だという彼女の慈悲こそが、猛毒となって世界を蝕むということを――』
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