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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方 3
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てなお、一緒にいてくれた二人。他人と同じ部屋で夜遅くまでお喋りしたり、お茶を飲んだりしたことなんて、この世界に囚われて以降初めてのことで、とても楽しかった。だからこそ、ピナは絶対に助けたいと思ったし、無事にプネウマの花を入手できたことは、自分のことのように嬉しかった。
 でも……。

「エミさーん! 早く早く! おいてっちゃいますよー!」

 その声にはっとしていつの間にか地面に落ちていた視線を上げると、二人はもう一つ先の曲がり角に差し掛かっていた。

「あ、ごめんなさい!」
「いえいえ。さあ、もうすぐです! 行きましょう!」

 急いで駆け寄ると、シリカちゃんは楽しそうに宿の方向を指差して歩き出した。
 ずんずんと進んでいくシリカちゃんの背中。わたしの視線と思考は、すぐに元の場所へ戻ってしまう。

 これで、わたしたちは解散することになる。そうなれば、わたしはまた独りだ。
 今までは、中層の人たちに恩を押し売り歩き、代わりに寂しさを誤魔化させていた。けど、結局、わたしが独りなのは変わらなくて。……そのことに気付いてしまった今、わたしは以前みたいに笑っていられるだろうか?

「……無理、だよね」

 声と言うより、息遣いに近い音で呟く。そもそも、わたしは自分のエゴのために偽善を押し付けていたのだ。それをこのまま、孤独から必死に目を背けて作り笑いを浮かべ続けることは、今更かもしれないけれど、できそうにない。
 でもだからといって、他に何をするあてがあるわけてもなく。(いたずら)に恐怖感だけが膨れ上がり、思考は袋小路へ迷い込む。

 結局、その後わたしたちが五分ほどの時間をかけて《風見鶏亭》へ到着しても、わたしの思念は先の見えない迷路から抜け出すことはできなかった。
 見上げると、見事な茜色に染め上げられた空と風見鶏亭の二階部分とが目に映る。何の変哲もない建物が、今のわたしには魔王の城より恐ろしく見えた。

「ピナ……もうすぐ、生き返らせてあげるからね……!」

 シリカちゃんが、小さいながらも歓喜と希望に溢れた声で呟いて意気揚々と宿に乗り込み、マサキ君が無言で続く。最後にわたしが、胸の奥まったところをピアノ線でキリキリと締め付けられるような苦しさを感じながら、鉛の塊を引き摺るような足運びで建物に入った。
 その時。

「あの、すみません。……エミさん、ですよね?」

 唐突に背後から声を浴びせられた。振り返ると、少し気の弱そうな細面の男性と、ダークブラウンの髪を背中まで伸ばした優しそうな女性の二人が立っていた。歳は大体二十台後半辺りだろうか。男性はわたしの顔を見て、ほっと表情を緩めた。

「ああ、良かった。ずっとお礼が言いたかったんです。……僕のこと、覚えてますか?」
「え? えっと……」
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