暁 〜小説投稿サイト〜
MA芸能事務所
偏に、彼に祝福を。
第一章
一話 働き者
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 朝、目覚まし時計の音で目が覚めた。外は明るい。そんなことに、何故か面白く感じ口角が僅かに上がったことを自覚した。時刻は五時三十分。今のような六月でないなら暗い時間帯故になのかもしれない。
 脳を働かせる為、昨日の事を思い返す。家に帰って風呂に入って惣菜を食し寝る。思い返すのは簡単。故に思い出すのではなく思い返した。
 反吐が出るほど単調で無機質、けれどむせ返るほどの人間らしさ漂う生活。社畜と言われればそれまでの異常なまでの献身。有名無実化する自身というカテゴリ。
 大丈夫、まだ生きてると自身に言い聞かる。寝起きの暗い部屋は、酷く現実味に欠ける。私のような人間には時折、ともするならばこの部屋がまるで駅のホームか何かに思えることがある。であるからに、そのような時には生きているという現実を自身に言い聞かせなければ、ふとした拍子に何かをしでかすかもわからない。例えばそう、このアパートから身を投げるとか。
 頭を振って意識を落ち着けた。こんな歪な思考に陥るのは寝起きだけだ。さぁ準備をして今日も出社しよう。そこに、私のプロデュースするアイドルがいるのだから。



 意味のないことはしなくはないのが私だった。無論それが社会人として欠点であると自覚はしているのだが、社会人三年目の私は未だ矯正できてはいなかった。故に、六時半という早朝にアイドル事務所の扉の鍵を開けて中に足を踏み入れた私は挨拶をしなかった。
 事務所内に意識を向けていなかったから、事務所に入るその時まで中に電気が灯っているとは思っておらず、また誰かいるということも思っていなかった。だが奥まで移動した私は挨拶をしなくてよかったと安堵した。
 そこにいた女性は、私に気付いてはいなかった。それもそのはず、彼女はソファーで寝ているのだから。私は件の彼女、千川ちひろという同僚に仮眠室から毛布を一枚拝借してかけた。この行為が行われるという異常性は、このひと月であまり感じられなくなっている。
 自身のデスクに座る前に彼女のデスクに向かい、モニターだけ電源の落ちたPCのマウスを動かした。待機状態だったそれははすぐさま千川ちひろの業務内容を表示する。とりあえずはこの表に記入漏れはなさそうだ。仕事を終えてか、少なからずはひと段落を終えての仮眠のつもりだったらしい。
 私は自身のデスクに向かい、溜まった事務作業を捌きにかかった。


 時計の短針が八と九の間を指した頃、私は寝ているちひろさんの元へ向かった。毛布越しに肩を揺らす。
「ちひろさん。ちひろさん」
 幾度か揺らすが、返答はない。
「ちひろさん、八時半です。ソファーで寝るのは今日だけにしてくださいよ」
 自身が垂れた言葉の後半に意味はない。このふた月幾度とお互い掛け合った言葉だ。制止の念だのとうにない。
 八時半に反応したのか、彼女
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