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騎士の想い
第五章

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第五章

「そうはなりません」
「ならないというのすか?」
「ですが敵はここまで」
「あの方が来られます」
 だからだというのである。
「あの方が来られるからです。安心するのです」
「あの方といいますと」
「イークレッド様」
「あの方がですか」
「そうです」
 その彼が来るというのである。
「ですから。落ち着くのです」
「しかし。来られるでしょうか」
「敵はあまりにも多いです」
「あの方の御領地では」
 侍女達はこう言ってまだ不安を見せていた。それは安易には消えなかった。
「それ程多くの兵は」
「ですから」
「それでも来られます」
 そう言われてもだった。エヴァゼリンは動じなかった。そしてさらに言うのであった。
「あの方だけはです」
「来られると」
「そうなのですね」
「はい、そうです」
 また言うのであった。
「必ず来られます」
「では。お嬢様の御言葉を」
「私達も信じさせて頂いて」
「あの方が決して嘘を仰らないように」
 また侍女達に対して告げたのだった。
「私も決して嘘はつきません。信じて下さい」
「では」
「その様に」
 侍女達もこれで落ち着きを取り戻した。その時だった。
 部屋の中に別の侍女が飛び込んできた。そうしてエヴァゼリンに対して叫ぶのであった。
「お嬢様、大変です!」
「どうしました?」
「援軍が来られました」
 こう彼女に告げてきた。
「援軍が。敵の横から来ました」
「そうですか。来られたのですね」
「はい」
 まさしくその通りだというのである。
「来られました、そして先頭には」
「あの方が」
「おわかりなのですか」
「必ず来られるとわかっていました」
 彼女は微笑んで言った。
「必ずです」
「そうだったのですか」
「あの方は騎士です」
 彼女はまた言った。
「ですから何があろうとも」
 来ると。そう信じていたのである。そしてその通りになった。
 イークレッドは己の軍を城を包囲しているその敵軍に対して突っ込ませた。自身はその先頭に立ち激しく剣を振って敵を倒していく。
「さあ、私と戦う者は誰だ!」
 馬上で敵に叫ぶ。
「誰でもいい、天界に行きたい者は出て来るのだ!」
「くっ、まさか援軍が来るとは!」
「しかもだ、強いぞ!」
「あの先頭の騎士、何者だ!」
 敵兵達は戦場を駆け巡る彼を見て叫んだ。
「一体あれは」
「何者なのだ」
「イークレッド卿だ」
 ここで騎士の一人が言った。

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