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SS:狼、白、そして氷槌
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き出しながら、巨人は挨拶でもするように緩慢とした声で返事を返した。
 巨人はただ単に『母』の役に立つために、この先にあるであろうヒトの住処を蹂躙し、女子供を踏み潰し、戦士を殴殺し、災禍と悲劇を撒き散らしに来た。巨人にしてみれば、ただそれだけのことだった。
 女はさして驚いた様子も見せず、ふんと鼻を鳴らす。

「愚鈍なだけのウドの大木かと思えば、貴様『魔将』か?呆れたでかさ、であるな。部下はいないのか?」
『……居ラヌ…ドウセ…気付、カヌウチ……ニ、縊リ、殺ス…ダケ、ダ……』

 どうせ魔物を引き連れたところで誤って踏み潰す。ヒト里を襲わせた所で、後から来た巨人の拳に巻き込まれて人知れず死ぬ。そして仮に生き残ったところで、巨人の移動速度にはどうせついて来られない。
 
 一人にして全ての将。それが灼熱の巨人だった。
 果たして巨人の拳の一振りで、脚の振り下ろしで、一体どれほどのヒトの命を狩れるだろうか。
 体より漏れる灼熱にどれほどの命が焼かれるだろうか。
 一夜にして国を劫火の海に変えることさえも造作ないであろう、絶望的なまでの力。

 故に、部下は必要がない。

 だが――

「妾もだ。貴様のような愚鈍な輩と気が合うというのも気に食わんが、な」
『……………』

 見栄を張る風でもなく、女も平然とそう言い放った。
 それが当然であるとでも言うように。
 お前の出来ることなど自分も出来ると鼻で笑うように。
 はったりの粋を超えた圧倒的な現実味と、その言葉を疑いたくなる理性的な不合理を同時に内包した言葉。しかし巨人の心の天秤はそのどちらにも傾かず、それ以上女に構う暇はないとでも言うように再び足を運びだした。
 女が戦うなら、殺せばいい。
 はったりであったのならば、殺せばいい。
 どちらにしろ、巨人はこの先にある町を潰す。それだけだ。

 足元は既に高熱で周囲の氷と永久凍土が融けたせいでぬかるみになりつつあり、蒸発する水分に水を足すように周囲の雪解け水が流れ込んで大量の蒸気が吹き上げていた。巨人はそのまま足を進め――

「待たぬか、不遜者めが」

 不意に、巨人は自分の身体の全てを覆うほどの影が周囲に出来ていることに気付いた。
 影の正体を見定めるようにその顔を上げた巨人の眼前に広がっていたもの。

それは――

「エドマの領地を踏み鳴らした挙句に第四皇女たる妾を無視とは――図が高いぞ」
『……………!!!』

 巨人は、一瞬目の前の光景を疑った。
 言葉にして説明するのならば、「氷山」と呼ぶにふさわしい、巨人の身体と同程度の質量はあろうかという――余りにも巨大な氷塊だった。いや、既に山を抉り取って掲げているかのような大きすぎる規模。

 ――『X(クィンクェ)』の神秘術
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