暁 〜小説投稿サイト〜
無欠の刃
下忍編
禁忌
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 ぽつりと呟いて、カトナは何度も頭を振る。
 あの人はそんなこと言わない。あの人はそんなこと思うわけない。
 でも、本当にそうなのか?
 不安定な部分を覆い隠していた強さが、めきめきとはがれていく。
 カトナが否定してきた感情で、心が鮮やかに染められていく。

 知らないのに、いいきれるの?

 幼子が笑う、声がする。
 自分が目を逸らし続けてきていた感情が、緩やかに芽吹く、音がする。
 

 愕然とした表情でカカシを見つめ返すカトナの顔からは、ありとあらゆる激情がほとばしっていた。
 しかし、その瞳を彩った感情を、正確にカカシは読み取る。
 恐怖。
 自分の弱点に触れられたことか。それとも、ナルトの為だけに生きれない自分であることか。それとも、カカシに…木の葉の里の大人に弱点を晒したことか。
 そこまでは、カカシにもわからないが、目の前の子どもは、カトナは間違いなく怯え、恐れ、震えていた。

 「、あ。ああああああああ、ああああ」

 言葉にならない叫び声を上げ、カトナが両手で頭を抱え、その場に蹲る。
 その脳裏に浮かぶのは、いくつもの人の顔、顔、顔、顔、顔。
 泣きそうになった、弟の顔。
 悔しそうに下を向いた、彼の顔。
 嫌悪感を浮かべる、誰かもわからない顔。
 憎しみに彩られた眼で、こちらの首を絞めてきた人の顔。
 そして、自分を見てため息をつく、ふたりの―両親の顔。
 カトナの中の感情が、爆ぜる。

「ごめっ、ごめんなさっ、ごめんなさい。ごめん、ごめん、ごめんなさっ」
「カトナ!?」

 血相を変えて駆け寄ったカカシにも気づかず、カトナは何度も何度も謝罪を繰り返す。
 その姿はまるで幼子の様で。
 警戒心をむき出しにし、ぼろぼろと涙を流し、カトナは怯える。
 カカシがそんなカトナを落ち着かせようと手を伸ばす。
 それが、カトナの中の彼らに重なる。
 恐怖で喉が凍りつく。
 たったそれだけのことが、自分に伸ばされた手が首を絞め、息が出来なくなっていく感覚に、よく似ているなと、冷静な、忍びとしてのカトナがそう酷評した。
 しかし、幼子は、そんな忍びになりきれない。
 びくりと震え、カトナはカカシの手から逃げるように後ずさろうとするが、力が上手く入らない体では碌に後ずさりも出来ず、しりもちをつく程度にしかならない。
 それでも逃げようと、カトナは頭を抑えていた両手を使い、なんとか後ずさる。
 その姿の、なんと非力で弱弱しいことか。
 思わず、手を伸ばしかけていたカカシを躊躇させる程度には、それはあまりにも可哀そうだった。
 カカシから距離をとろうと後ずさり続けていたカトナの背中が、とんと、壁に当たる。
 逃げ場がないと、カトナの手ががりがりと壁を引っ掻く。

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