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クルスニク・オーケストラ
第七楽章 コープス・ホープ
7-10小節
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先生が目を流したのは――佇むミス・ミラ。
 他の子たちは室長を押さえるので手一杯。となれば。

「イバル。お行きなさいな。イバル?」
「う……はい」

 イバルは苦々しさを隠さず、ミス・ミラの前まで歩いて行って、双剣の片方を抜いてミス・ミラに突きつけた。

「ミラ様も……ご一緒願います」


 ――《……ラさまに》


 え?


 《ミラさまに、剣を、向けた》


 この声……わたくしの声じゃない! 油断した! 《道標》は無機物だから《レコード》はないと思ったのに。
 まずい。このままじゃこの《レコードホルダー》に体を使う権利が、移、る……

「《よしなさい、無礼者!》」

 体がわたくしの意思とは無関係に、ミス・ミラとイバルの間に割り込んだ。

 手が。勝手にイバルの剣、それも刀身を掴んでいる。握り込んだ拳の中でいくつもの裂傷が出来て血が流れるのを感じる。痛い。手を離したいのに。

「《どうしてよ…! 何でお前がミラさまに剣を向けるの!》」

 この《レコードホルダー》は、ミス・ミラとイバルを知っている。違う。ミス・ミラとイバルに生前親しかった人々を重ねている。
 《悲しくてたまらない》。涙が勝手に流れる。精神が《レコード》にシンクロする。《二人でずっとミラさまを守って行くんだって誓ったのに》――

「ジゼル・トワイ・リートっ!!」

 ッッ!! ……あ、ああ…せんぱいが、よんで、る…

 やっとイバルの剣から手を離せた。
 手が痛い。それ以上に急激に意識を揺り戻されたショックに吐き気がした。息が荒くなって、気持ち悪さにしゃがみ込んだ。

 やってしまった、仕事中なのに。《レコード》の持ち主に成り切ってしまった。

 ふいに肩に大きな掌が触れた。顔を上げる。後ろから室長が肩を掴んでらした。

「自分が誰か分かるか?」
「わた、わたくし、は…ジ…ジゼル…、エージェント…分史対策室…ユリウスせんぱい、の、部下…」

 室長は安堵を浮かべた。これで何度目でしょう、この人にこんな顔をさせるのは。
 自分が狂人だという自覚はあるし、それで周囲の目が胡乱になろうともう慣れました。ただ、室長をいつも不安にさせる自分だけはいつまでも受け入れられません。

「申し訳ありません……お見苦しい所をお見せしました」
「気にならない。慣れてる」
「……すみません」

 寄りかかるフリをしてユリウス室長に囁く。

(一度捕まったフリをしてください。ルドガーの《鍵》の力に疑惑が浮上しました。再調査の時間を下さい)
(……しかたないか)


「ハイハイそこー。いい加減ウチの補佐とベタベタしないでくれますー? も・と・室長」

 リドウ先生、ナイスタイミングですわ
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